「渡り鳥」余談
「渡り鳥…遥か彼方へ」にて季語との絡みで多少のことは触れた。
同上の記事では、この記事を書く動機ともなった、樋口広芳著の『鳥たちの旅―渡り鳥の衛星追跡』(NHKブックス)をたまたま読み始めていると書いている。
本稿では、季語としての「渡り鳥」から離れ、本書などを中心に、「渡り鳥事情」などをあれこれ書いてみたい(まだ同上の本は読み止しのままである)。
著者の樋口広芳氏の略歴などは、リンク先を覗いて見て欲しい。
小生は同氏の仕事というと、同氏の訳になるジョナサン・ワイナー著『フィンチの嘴―ガラパゴスで起きている種の変貌』(樋口 広芳/黒沢 令子訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)を読み感想文を書いたことがあるが、著作などに触れるのは初めてである。
上掲のサイトにもあるように、「研究内容」は、「生物多様性の仕組,意味,進化,保全に広く関心をもって研究している.とくに興味をもっているのは,島にすむ動物の生態と進化,托卵習性の進化,日本列島の生物相の起源と発達,動物の知的な行動の発達過程,希少種や渡り鳥の生態と保全,鳥獣害の発生機構と防止策などである.いろいろな生物に関心をもっているが,実際の研究対象は鳥類である」という。
「最近は,人工衛星を利用して渡り鳥を追跡し,渡り経路や渡りの経時移動パターンを明らかにする研究に励んでいる」というが、本書は特にこの研究の成果を著したものである。
このサイトには、「ロシアでの調査風景」の模様が画像で示されているが、『鳥たちの旅―渡り鳥の衛星追跡』の中にもカラーの口絵や白黒の写真、図版が豊富で、見ているだけでも楽しい。
「[特集] 渡り鳥はどこからどこへ -- 樋口 広芳 -- 隔月刊 」なるサイトを覗くと、本書にも書いてある研究の内容の一端が分かるかもしれない。
「先ほど「美しい自然があり素晴らしい生きものがいる」といいましたが、アネハヅルというツルはヒマラヤを、標高が七〇〇〇~八〇〇〇メートルという大変高い山の峰々を渡ります。白い山肌を背景に数千羽、数万羽の鳥たちが通過していく姿は、じつに荘厳な光景です。こういったツルたちがいったいどこからどこへ、どういうふうに渡っていくのか、大きな謎のまま残されていました」というが謎であると同時に、樋口広芳氏が本書の中で折々感嘆されているように、渡り鳥の営為の凄さをつくづく思う。
さて、渡り鳥の渡りの謎を解くため、従来は「私たち鳥の研究者は足輪や首輪を使いました。色のついた足輪に番号がついている。それをつけている鳥を再捕獲または再観察する。その番号をたよりに、その鳥たちがどこからどこへ行くということを調べる」というわけである。
が、労多くして成果が乏しいこともあり、「地球規模で移動する渡り鳥の、基礎的および応用的な側面からの研究の必要性に応じ、効率よく、大量の正確なデータをえるために、人工衛星を利用した追跡が開発されました」という。
そのためには鳥の体に送信機を取り付ける(小生、老婆心ながら、小さいし軽いとは言うものの、また、取り付ける鳥の種類も比較的体の大きい鳥を選んでいるとは言うものの、鳥の渡りという難行に少しは影響するのではないかと、ちょっと心配になる…)。
詳細は上掲のサイトを覗いてほしいが、その送信機から電波が発信され、その電波を衛星を使って追跡するわけである(ここでも、素人たる小生は危惧する点がある。鳥は太陽など天体の位置関係から渡りの方向を探っているらしいけれど、地磁気など電波(電磁波)の類いは一切、使っていないのだろうか。電磁波(電波)が鳥の体や脳の機能に影響することはないのだろうか…)。
送信機から発信される電波を追跡する…。画期的だが、送信機の電池の寿命の問題、電波事情の如何という事情もあり、完璧に追跡することが可能になったというわけではないらしい。
研究成果などが上掲のサイトに書いてあるが、本書を読んでも面白かったのは、日本に飛来する(あるいは日本から飛び去る)渡り鳥で大陸に渡る鳥のかなりのものが、朝鮮半島の非武装地帯を経由するという事実。
非武装地帯ということもあり、戦闘でも始まらない限りは、普段は開発その他がされず、当然、人の手が入ることも少なく(監視の目は厳しいだろうが)、結果として鳥さんたちには大事な、経由地、休憩地になっているらしいのである。
ちょっと、皮肉?
とにかく、「コンピュータの地図上で追うことによって、美しいツルの渡りの光景を頭の中で思い描くことが簡単にでき」るというが、まさに「渡り鳥に国境はない、もちろんパスポートも」というわけだ。
本書を読んで知ったことは、さらに、環境問題と渡り鳥とが密接に関係しているということ。地球温暖化と直接結びつけることができるかどうかは別として、鳥の渡りの季節が微妙にずれて(早まって)きているという観察結果があるというのだ。
季語(俳句)との絡みで言うと、季語として渡り鳥や渡りの光景を織り込むにしても、従前の季節感とはズレが生じることが十分に予想されるわけである。
そのうち、日本が亜熱帯化し、且つ、湿地やエサの豊富な森林などの営巣地が増えたら、越冬も日本国内で済ます横着な種類(類い)の<渡り鳥>が増えてくるかもしれない。鳥たちが河や谷を越える様子をハイカー(俳句を嗜む人たち)が見て、あれが鳥の<渡り>だと、などと言うことになりかねない(ってか)。
ついでながら、本書を読んで知ったのだが、鳥が冬などに渡りをするのは、冬の寒さがつらいからではないという。鳥は、寒さだったら、羽毛に包まれているし、耐えられるというのだ。
冬に渡っていってしまうのは、あくまで冬の時期は昆虫などのエサが乏しくなるから、なのである。まして、エサを食べ過ぎて太ってしまったから、ダイエットのため、何千キロも渡るわけでは決してない!
年毎に渡り鳥の数はかなり変動する。だから、近年、日本に飛来する渡り鳥の数が激減しているとしても、即座に環境問題(温暖化問題)と絡めることが正しいかどうかは分からないが、とにかく80年代のある時期から激減している事実があるという。
農薬その他の原因も考えられなくはないが、それより、渡りの先の有力な地(湿地)のあるインドネシアでの熱帯雨林の伐採が80年代に急激に進んだこととの相関が一定の信憑性を以って考えられてきているとか。
貧困、環境、開発、政治的(宗教的)問題が、背後にあると想定するのは突拍子もないこととも思われない。
関連の記事は、ネットでも豊富に見出される。例えば、「以前、地球上の14%の大地は熱帯雨林でした。現在では6%ほどしか残っていません(それ以下かもしれません)。特に東南アジア(フィリピン、インドネシア)、南米(ブラジル)の熱帯雨林の減少は深刻です」という、「Vanishing Rainforests(消えゆく熱帯雨林)」などを参照のこと。
つい最近のニュースだが、「人に感染する恐れのあるH5N1型の鳥インフルエンザウイルスが15日にルーマニアでも検出され」たという。
「NIKKEI NET いきいき健康 鳥インフルエンザ」なる記事を覗くと、「人に感染する恐れのあるH5N1型の鳥インフルエンザウイルスが15日にルーマニアでも検出され、欧州連合(EU)は加盟各国に緊急対策を要請した。渡り鳥の飛来地の重点的な監視や家禽(かきん)の隔離などが柱。冬をひかえて欧州で鳥インフルエンザが流行する恐れがあり、警戒を強めている」という。
さらに、「致死性のH5N1型ウイルスはトルコでも確認されており、EUは黒海沿岸を厳重監視地域とした。加盟各国には沼地や農場などでの重点調査を要請。鶏やアヒルなどの家禽と渡り鳥の接触を防ぐほか、戸外での家禽の放し飼いを禁止するよう促した。渡り鳥を通じて独仏などに感染が拡大する恐れがあるためだ」というのである。
「フィリピン農務長官は9月、例年第4四半期(10~12月)に北方からの渡り鳥が多く飛来することか
ら、鳥インフルエンザ対策として、特にこの時期の渡り鳥の監視強化を行うとした。同長官によると渡
り鳥の主な飛来地20カ所においてサーベイランス調査を実施したところ、現在感染は確認されてないと
している。
これに関連して、国連食糧農業機関(FAO)は9月1日、野生水鳥の渡りが鳥インフルエンザのまん延を引き起こしており、現在ロシアおよび中国で感染が拡大している主な要因であるとして警戒を呼びかけていた」などといった内容の、「渡り鳥の監視を強化(フィリピン)-東南アジア-平成17年10月第692号」なるサイトも参考になる。
「渡り鳥に国境はない、もちろんパスポートも」ことの負の面ということなのか。
余談の余談だが、小生などは、「渡り鳥」と聞いて真っ先に思い浮かべたのは、小林旭が主演してヒットした「渡り鳥シリーズ」だ。散々、季語随筆などで「渡り鳥」の話題を採り上げてきた今も、「渡り鳥」というと、「渡り鳥シリーズ」がまず、思い出される。
ガキの頃、さすがに映画館では観ていない(はずだ)が、テレビでこの映画を観たものだった。
「ギターとガンを手にした主人公が全国各地を渡り歩いて、その土地に巣くう悪玉をやっつける」というが、昨年だったかブレイクしたギター侍の先駆けと言っていいのか(いい筈がないか)。
相手役には浅丘ルリ子がいて、最初はいがみ合うが最後は友情に燃える相手に往年の宍戸錠。
今、初めて知ったのだが、この映画シリーズは、『南国土佐を後にして』の大ヒットによって生まれた」とか。
この曲は、ペギー葉山が歌ってヒットしたもののことかな:
「南国土佐を後にして(昭和34年)」(作詞:武政英策 作曲:武政英策)
だとして、この『南国土佐を後にして』からどのようにして、映画「渡り鳥(シリーズ)」が生まれたのだろうか。この辺りの事情は、いつか、機会があったら調べて見たい。
ちょっとだけ調べてみたところ、曲の題名と同じタイトルの映画「南国土佐を後にして」が日活で撮られていた。
この時の主役が小林旭(一人二役)、絡む相手が浅丘ルリ子のようなので、映画「南国土佐を後にして」のヒットに気を良くして、映画「渡り鳥(シリーズ)」が生まれたのかもしれないと想像される(この頃の浅丘ルリ子さんは絶品の別嬪さんだった)。
現在では、「土佐の高知・よさこい祭り」にゆかりの曲として歌の「南国土佐を後にして」があったんだよ、ということになっているのかもしれない。
踊りがサンバ調なのは有名だ:
「土佐の高知・よさこい祭りの歴史~はりま家」
[ [livedoor ニュース - [鳥インフルエンザ]人間感染、受容体は肺の奥の細胞に存在]というニュースをラジオで、そしてネットでもゲット。ここでは「livedoor ニュース」から一部を転記させてもらう:
鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)が細胞に取りつくための手がかり(受容体)に使う分子は、人間では主に肺の奥の細胞に存在することを、鳥取大鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターの新矢恭子助教授と東京大医科学研究所の河岡義裕教授らのグループが見つけた。河岡教授は「鳥のウイルスは人の肺の奥で増え、そのためせきなどで体外に排出されにくく、他の人にうつりにくいのだろう」と話している。23日付の英科学誌「ネイチャー」に発表した。
新矢助教授らは、肺などを切る手術を受けた日本人8人について、切り取った組織を分析し、それぞれの受容体が人体のどの部分に分布しているのかを調べた。
その結果、人間のウイルスが使う受容体は、鼻の粘膜や咽頭(いんとう)、気管支など、口や鼻に近い部分にあった。ここで増えたウイルスは、せきなどで容易に外に出て、他人にうつるとみられる。
ところが、鳥のウイルスが使う受容体は、鼻の粘膜などにはほとんどなく、気管支の先端部や、さらに奥に入った肺胞だけに存在していた。
河岡教授によると、肺の奥は比較的温度が高いため、鳥のウイルスの増殖に適している。一方で鼻や口の近くは温度が低く、たとえ鳥のウイルスが取り付いた場合でも増殖はしにくい。【高木昭午】
(2006年03月23日03時31分 毎日新聞)
尚、この「「渡り鳥」余談」には鳥インフルエンザウイルスに関連して「「渡り鳥」余聞余分」という記事がある。また、「渡り鳥…遥か彼方へ」という記事は、季語としての「渡り鳥」に焦点を合わせて記述してある。 (06/03/23 追記)]
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コメント
「[鳥インフルエンザ]人間感染、受容体は肺の奥の細胞に存在」という情報をラジオやネットで入手したので、当該の頁に追記しておいた。
投稿: やいっち | 2006/03/23 13:48