嶋岡 晨著『現代詩の魅力』抜粋(7)
昨日も車中では待機中などに川西政明著の『小説の終焉』(岩波新書)を読んでいた。
日本の文学について読書家を自負するだけに、新書ながらも、小生には未知の知見を一杯戴いた。
必ずしも本書の本筋ではないかもしれないが、南京の戦闘について、佐々木到一著『南京攻略記』(『昭和戦争文学全集』別巻所収)なる記録のあることを知った。
「『歴史教科書』(扶桑社)は中国にたいする侵略戦争をどう書いているか-不破 哲三」によると、「ここで紹介されている佐々木到一氏の『南京攻略記』は、「南京事件」から一年四カ月後の一九三九年四月、彼が「戦場記録――中支作戦編」と題してタイプ印刷を完了していた草稿を収録したものだとのことです(『昭和戦争文学全集』別巻『知られざる記録』〔一九六五年、集英社刊〕巻末の橋川文三氏の「解説」による)」とか。
南京大虐殺については、藤原彰『南京の日本軍 南京大虐殺とその背景』一九九七年、大月書店刊)などもある。
原爆については、原民喜『夏の花』や井伏鱒二『黒い雨』などを採り上げてきたが(本書でも採り上げられている)、他にも、佐多稲子『樹影』、大庭みな子『浦島草』、田中千禾夫『マリアの首』、宮本研『ザ・パイロット』、堀田善衛『審判』、いいだ・もも『アメリカの英雄』、小田実『HIROSHIMA』、井上光晴『地の群れ』、高橋和巳『憂鬱なる党派』などがあるという。
他にも、以下に列挙した作品は、全く読んでいない。情ない。
さらに、原爆文学の語り部として林京子も逸するわけにいかない。
本書『小説の終焉』を読んで一番、理解できなかったのは、「存在の終焉――埴谷雄高『死霊』」の章の説明。粗筋が書いてあって、そうだったのかと気付いたり、スパイリンチ事件が物語の背景にあることなどを教えてもらったけれど。
尤も、川西氏には『「死霊」から「キッチン」へ』(講談社)という著作があるらしいので、本書の中の短い記述へのレスは後日、機会があったらということにする。
この頃は読書というと車中がメイン。時間がない! 過密日程の仕事がまだしばらく続く。自宅では寝たきりの生活になっていて、本を読む余力がないのだ。
ま、そんな愚痴を日記のサイトでもあるこのブログに書いたところで、いざ、表題の作業に取り掛かろう!
今回は、大崎二郎氏や堀場清子氏などの発見があった。
大崎二郎 「沖縄島」
その野に旗をかかげて
戦後はおわった というか
人々は何を忘れ急ごうとするのか
… … … … …
手のない 足のない 目のない
ひとつづつの汚穢(おえ)になり果てた人の子ら
堀場清子「首里」
縊られた赤子 犯された女
壕を追われた老幼 友軍の銃剣が刺した胸板
艦砲に喰われた五体……
以倉紘平「馬」(「沙羅鎮魂」より)
十代の頃、私はこの馬のいななきに、人間と馬の親密な絆を思って涙した。二十代で、厳然たる運命の支配に対する澄明な悲しみを見た。三十代で、王朝世界の滅亡の挽歌を聞いた。そして、四十代になって私は確信するに至った。人間の愚かしい営みなど、あの澄んだ馬の瞳は何も映していなかったのだと
長谷川龍生「失敗の神話」
遠丸立「埋もれた詩人の肖像」
ンジュジ(『ブラックアフリカ現代詩選』(登坂 雅志、花神社)より)
私の詩が歌であるなどと言わないでくれ
でなくて 見知らぬ女が
力ずくで開け
その貧困や苦悩に閉ざす
錆びた扉のきしむ音である。
日高滋「紙行」「紙生」「紙上のヒト」(「ペーパーマン」より)
<自分は紙人になった>そう思うと紙風船みたいにとても気がかるむのだ。そのまま選挙用紙の白い素顔をさらして ひとの見えない視界ひとの行けない紙界へ 吹かれていく
……
と 自分が<紙人>になった
おぞましさをどうしようもない
薄っぺらなふところに
<紙生>と題した腰折れ文を
遺書のように
忍ばせているせいもあって
……
あふれる紙ことばの
まばゆい照り返しに
目くそ鼻くそをほじりながらも
未知なる地平を求め
和順高雄「雪語圏」「寝床の犯人」(「秋が噛みついた」より)
電線にふりつもってるあれは
ぼくらの歴史の洗濯物ではないか
……
春の泥の正義を噛みしめ
星の暗号を手足いっぱいに受け
わけのわからぬ裁判の
おれは寝床の犯人だ
……
松本恭輔「ヤマユリ」(『押韻定型詩集 日本語遍路』 より)
庭に植えた 深山(みやま)のユリ、
窓越しに香も深い。
ハチが群れて からだこすり、
夢とうつつの境。
ヤマユリ揺り、身を揺り揺り、
時はいつしか移り……。
ユリはやがて 山をわすれ、
星わすれ、露もまた。
その匂いも いつか薄れ、
ハチの羽音も彼方。
……(略)
津坂治男「夢 中庭」
死んだらすべては終わる世界も この
身も と唯心論ときに信じる
イラクも ソマリアも
飛び交うミサイル
みな夢? あとは白けた虚無、炎の
……(略)
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