嶋岡 晨著『現代詩の魅力』抜粋(6)
今日は余計なことは何も書かない。ぶっつけで転記作業に入る。
今日の発見は三田洋かもしれない。
仕事のスケジュールが過密で、本を読むのも億劫。考えるのは嫌。ただただ詩を味わっている。
←オリオリさんにいただいた画像です。さといもの大きな葉っぱを皿にしている!
小生は現代詩も何も知らない。こうしてネットで詩人の情報を拾い集めるという単調な作業をしていると、今の自分の状態にぴったりのような気がしてくる。
詩は考えたって仕方がない。心を無にすることだ。
その世界に没入できるか、感覚的に資質的に合うかどうか、なのだ。知的な詩であってさえも、人の生理的な感覚というフィルターを逃れることはできあにのだ。
時代が現代に近付くにつれ、ネットでは詩の引用を見つけられず、本書からの転記になる。これも、面倒だけど、楽しくもある。きっと、手で一字一字、書き写していったほうがいいのだろう。
でも、多くの詩は、書籍の形であれ、パンフレットに近いような詩集の形であれ、多くは活字なのだ。手書きの文字、肉筆ではなく、活字で読まれることを意図している…のかもしれない。
俳画のような形もあるのだろうけれど。
これも余談だけど、昨日はラジオで高嶋ちさ子さんの話やヴァイオリンの演奏を聴いた。彼女はパワーを与える人だとつくづく思う(以前、黒柳徹子さんの「徹子の部屋」に出演していたのを偶然、テレビで見たことがある)。
ざわめく防風林の奥
射つおとされた野鴨の両眼に
白い霧が凍つてゐた
洋灯の冷たい流れにひたって
ぼくは沈鬱な来歴を書き終えた
夜どおし 枯草の中で
死ねない野鴨が羽ばたく
ぼくは寝返りばかり打つてゐた
(註:「洋灯の冷たい流れにひたって」の「ひた」は漢字表記。漢字が見つからず、やむおえず平仮名表記にしてしまった。函にサンズイ。)
わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音
… … … …
わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
座りきりにさせないでください わたしは風…
(註:小生は未確認だが、「わたしを束ねないで」は美智子皇后によって美しい英訳にもなっているとか。)
白石かずこ「聖なる淫者の季節」
若い木 地下鉄たちよ
行動たち 沈黙たち
太い 実直な愛
強靱なペニスたちよ
誇りたちよ 若者の眼たち
その淵に ハネカエル涙の滝
怒りと愛の バイタルな魚たちよ
… … … …
おまえの魂と同じくらい
おまえのペニスを愛するだろう
おまえの筋肉のバネと同じくらい
おまえの心臓の感じやすい鼓動を愛するだろう……
伊藤比呂美「あたしは便器か」(『テリトリー論1』より)
あたしは便器か
いつから
知りたくは、なかったんだが
疑ってしまった口に出して
聞いてしまったあきらかにして
しまわなければならなくなった
(註:本書『現代詩の魅力』には彼女の詩は全く引用されていなかったので、勝手に一つだけ、それも断片だけど。)
入沢康夫「鴉」(詩集『倖せ それとも不倖せ』より)
広場にとんでいつて
日がな尖塔の上に蹲(うずくま)っておれば
そこぬけに青い空の下で
市がさびれていくのが たのしいのだ
街がくずれていくのが うれしいのだ
やがては 異端の血が流れついて
再びまちが立てられようとも
日がな尖塔の上に蹲っておれば
(ああ そのような 幾百万年)
押さえ切れないほど うれしいのだ
吉増剛造「変身」
一日の朝の瞬間
死が凍った睫をうち
亡霊のように創世記がたちあらわれる
透明の巨木!
太初(はじめ)に鏡あり!
遠い幻影<二人倶(とも)に裸體(はだか)にして愧(はぢ)ざりき>
黄金の庭でぼくは排泄した!
この幻影こそ意志
この幻影こそ意志……
荒川洋治「水駅」
妻はしきりに河の名をきいた。肌のぬくみを引きわけて、わたしたちはすすむ。……
荒川洋治「楽章」
世代の興奮は去った。ランベルト正積方位図法のなかでわたしは感覚する。……
以上までは、嶋岡 晨著『現代詩の魅力』の第一章、「現代詩の歩み ――100年」に引用されている詩の断片群の転記(など)である。
以下は、本書の違う章に見出される詩の引用をピックアップしたもの。
段々、小生の感覚にフィットする詩(詩人)が増えてくるような。
山之内まつ子「無念」
両目の釦をかけちがえ
きょうの水たまりを跨げぬ
うらがえす度に
自我にめざめる手袋
……
わたしは詩の一行と
黒髪とを交換する
辻井喬「群青」
……まほろば やまとしうるわし と叫びたくなる
都市が腐った臭いを放っていても
まほろば横たわれ黒潮の流れのなかに
近代皮相の歌を唄え わがあこがれの尽くるまで
聞け 私の心よ
ありし日ただ聖者たちが聞いたように
群青の わだつみの声を
……
渋沢孝輔「海際の歌」
……いくつもの洞窟をくぐり
肌寒いばかりだ
ただ肌寒いばかり
暗喩も思想もうばわれている
妙な風 ふたつの風に
底あげされて……
…反復はそして、まれな、木の葉うらのそよぎ、不安な耳殻
ましてうつつの霧を吹く地名の高み、
らをつたい、たえず、
たえず、ずれてゆくものだから、
――ゆびさき、踊るゆうべ!
… … … …
……そうして碑から碑へ
わたしは有限個の
記述の灰のエクスタシーにまみれるだろう……
三田洋「一行の宵」
飯をくうかとちちがいっている
むすこはかしこまっている
とおい柱時計をくぐってお膳がはこばれる
どこともしれずけむりがたちのぼり
ちちは飯盒のふたをとっている
ははは残飯を食べている
むすこは芋粥をすすっている
まごはブラウン管にむかってハンバーガーをほおばっている
(「世紀の食事」より)
事故があったのだ
担架で運ばれていったのだといっている
……
おれの脚はたしかなのか
とおい踏切で警報機がなっている
きょうもきのうのように
そのままくれているおれの明日にはげしく点滅しながら
……
レールはまもなくぬぐわれるだろう血はあとかたもなく洗われるだろう
電車はまたひとでいっぱいになるだろう
それからまたかぜがふいてくる
……
ひかれたのはだれだったのか
おれはたすかっているのか……
(「事故」より)
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