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2005/09/06

音楽三昧?

 タクシーの営業をやっている…となると、一日、車中にいる。小生のように本を読んだり何かを書き綴ったりするのが好きな人間には退屈かというと、さにあらず、とてもとても退屈などしていられない。
 まずは車の運転ということで、交通事故に遭わないため、神経を擦り減らしているということもあるが、そもそもお客さんあっての仕事、接客業という性格があるので、対人関係という意味でも、神経を使う。
 その前に、不況ということもあって、お客さんを探すという苦労もある。この辺りにいるかな、あの交差点を右へ曲がるか直進か、それとも左折か、あのガードレールの切れ目に立って車の様子を伺っている人はタクシーを探しているのか、それとも友人・知人が迎えに来るのを待っているのか、それとも、道路を横断するために車の流れを見ているだけなのか、などを見極める。
 さらには、最近は潜在的な需要(お客さんの数)に比べタクシーの台数が増えたこともあり、お客さんはタクシー(の会社や個人かどうか)を選ぶようになってきている。
 長年の勘で空車のタクシーの来るのを待っているようだと直感したとしても、個人タクシーを狙っているのか、法人か、法人でも特定の会社か、とにかく空車だったら何でもいいのかを嗅ぎ分けようなどとしてしまう。
 それでも、お客さんの可能性がある限りは、乗ってもらおうとなんとか近付いて行って、普通ならしない割り込みなどもして、路肩へ車を寄せていく。
 ああ、でも、知らん顔だ。違った。お客さんじゃない。少なくとも小生の車のお客さんじゃない。と、思ったら後続のタクシーに乗った…、ああ、個人タクシーだ。あーあ、法人じゃダメなのね。

 とにかく路上では、自分の飯の種を求めて走り回るわけである。
 実車はお客さんを乗せて神経を使い、空車は空車で何処を走らせるか、どの交差点をどう曲がるか(直進するか)の判断に頭がフル回転している。
 回転しながらも脇をすり抜けていくバイクに、ウインカーも出さずに急に発車する車に、路上駐車する車の列の間から不意に飛び出してくる歩行者の有無に神経を研ぎ澄まさせている。 
 どんなに営業的に暇でも、退屈など、するわけがないのである。
 その意味でラジオを聴取するというのは、退屈しのぎというより、磨り減り、ささくれ立ってしまう神経を慰撫するためなのである(交通情報、天気情報、時事報道などの情報摂取の目的は当然である)。
 
 さて、昨日は、音楽三昧だった。というか、ラジオに求めるのは情報もあるが、音楽が一番なのである。
 が、仕事柄、音楽に耳を傾けるわけにもいかない、というのは当然として、その前に、小生は、CDプレーヤーを装備しているわけではないので、好みの音楽CDに耳を傾けるわけではない。
 それより、せっかく空車の間、ラジオを聴くことができのだが、自分の好みではない、あるいは未知の音楽に耳を傾けるほうが望ましいと思っている。好きな音楽は自宅で聴けばいいのだし。
 ラジオで音楽三昧していると、ありとあらゆる分野の音楽を聴けるのが嬉しいし、ありがたい。

 ただ、そうはいっても、ラジオは基本的に不特定多数の相手に音楽や情報を提供している。リクエストに応じるといっても、老若男女、ありとあらゆる方がリクエストしている。音楽シーンも、90年前後から大きく変貌している。
 ラジオ、特に民放は若い人を中心に情報やお喋りや音楽を提供するので、中年の小生には、ラップも今時のロックも耳に煩いばかり。
 そんな耳に障る音楽だったら、聴きたくないから、あまり車中で聴くのは好きではないのだが、対談やインタビューものやバラエティ系の番組に切り替えてしまう。
 なかなか望み通りの音楽が掛かるというわけにはいかないのだ。

 そんな中、昨日は嬉しい一日だった。自分の好きな分野の音楽が、局を切り替える先々で聴くことができたのだ。
 例えば、昨夜(FM・後7・20~9・00)、小生には初耳の、マルティン・シュタットフェルト(Martin Stadtfeld)というピアニストの演奏をじっくり聴くことが出来た。「今週の主な番組」によると、「シュヴェチンゲン音楽祭2005」からのもののようで、「マルティン・シュタットフェルトは1980年生まれのドイツのピアニスト。2002年、ライプチヒでのJ.S.バッハ国際コンクールで優勝してセンセーションを巻き起こし、その後リリースされたバッハの《ゴールトベルク変奏曲》はドイツで大ブレイク。「グールドの再来」との呼び声もある。今夜は、「将来のスター・ピアニスト」の初お目見えに立ち会える貴重な機会となろう」という。
 その前に、「シュヴェチンゲン音楽祭」とは、「1952年の創始。ドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州にあるシュヴェチンゲン宮殿の諸施設を会場に、毎年4月末から6月初旬にかけて開催されている。バロックから現代まで取り上げる作品は幅広く、会場の雰囲気によくあった、ソロから室内管弦楽団くらいまでの規模による演奏会が連日繰り広げられる。プログラムは、オペラ、声楽、ピアノ、室内楽などきわめて多彩。また、新人を登場させることにも積極的であることで知られる」のだとか。
「今週は、そのシュヴェチンゲン音楽祭の2005年の模様を5夜にわたってお送りする」ということで、ラジオ番組の予定など知らない小生は、たまたま選局したラジオ番組がこれだったというわけである。ラッキーだった。
 メニューは、以下のとおり:

 「マルティン・シュタットフェルト予定 ピアノ・リサイタル」 (2005年5月5日 シュヴェチンゲン宮殿 コンサート・ホール/録音:南西ドイツ放送協会) マルティン・シュタットフェルト(pf)  ・バッハ:フランス風序曲 ロ短調 BWV831  ・バッハ:イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971  ・ショパン:バラード第1~4番  他

 但し、小生、仕事中だったし、雨の日ということで珍しく忙しかったので、どの曲も自宅でのように、目を閉じて聴き入るというわけにはいかないし、その前に大抵は断片的にしか聴くことが出来ない。
 それでも、お客さんが乗っていない折々にボリュームを上げて、彼のピアノ演奏に耳を傾けた。目は路上の様子に目を皿にしながら。目や頭は交通事情に神経をフルに尖らせ、でも、きっと頭の片隅の何処か、それとも心のある様相においては、音楽を堪能する。
 掛かる曲がまた、バッハとショパンなのだ。バッハは学生時代にヴァイオリン協奏曲に出会ってからのファン。ショパンは、かなり遅まきながら、なのだが、90年頃、ある講演会の中で、ショパンのこういう演奏もあると、録音で聴かせて貰って、それが実に小生のツボに嵌ってしまって、改めて見直してしまった。
(まあ、ショパンについては、ちょっとした思い出があるのだが…→「雨音はショパンの」←但し、この作品は、あくまで虚構である。)
 尚、ゴルトベルク変奏曲のCDなどが評判で、ドイツでグールドの再来とも言われているマルティン・シュタットフェルトは「2006年3月に来日の予定」とか。

 昨日の午前には既に素敵な音楽(音楽家)との出会いがあった。「J-WAVE」の「BOOM TOWN」という番組で、千住真理子さんの話を伺い、また、彼女の演奏を聴くことができたのだ。
J-WAVE WEBSITE BOOM TOWN blog」によると、「大橋マキさんナビゲートのブームタウン!今週のゲストはヴァイオリニストの千住真理子さん」という番組内容だった。「大橋マキさんナビゲートのブームタウン!今週のゲストはヴァイオリニストの千住真理子さん 今週はお休み中のクリス智子に代わって大橋マキさんがお届けするブームタウン!いつもと雰囲気が違う」ということで、「ヴァイオリンを弾くためには、爪や骨まで丈夫でないといけないとは・・意外と体育会系な職業なのですね。明日は、千住さんの少女時代やデビュー当時のことについて伺っていきます!」といった話を伺い、当然ながら千住さんのヴァイオリン演奏を聴くことができたのである。
千住真理子 オフィシャルサイト」を覗くと、その表紙に真っ赤なメッセージカードが目に付いた。
 どうやら今年は千住さんのデヴュー30周年のよう。このメッセージを読むと、彼女のバッハへの思い入れや因縁の深さが書いてあり、また、彼女の愛器ストラディヴァリウス「デュランティ」を携えて、アビーロード・スタジオへバッハを録音に行ったことなどが書いてある。
 その演奏は、「愛のコンチェルト」というデヴュー30周年記念アルバムで聴くことができる。
 彼女と彼女の愛器ストラディヴァリウス「デュランティ」とのことについては、特別にが設けてある。「千住真理子は言う「デュランティとの出会いで、私はまた0からの出発点にたった。今まで演奏してきた全ての音楽は無いのに等しい。これからが私の本当の音楽人生なのかもしれない。」と」いうわけである。
(ちなみに小生は、先だって、ストラディヴァリについて多少のことを季語随筆で書いたばかりである→「自然という書物」)
 久しぶりに千住真理子さんのヴァイオリン演奏によるバッハが聴けて嬉しかった。

 さらに昨日は、やはりNHKFMラジオの「アジアポップスウインド」にて「神々の棲(す)む島バリ島の芸能文化」というテーマの話を断片的にだが、聴くことが出来た。
 聞き手は関谷 元子さんでゲストはイ・クトゥッ・スウェントラさんだった。
melma!blog [gado-gado]」によると、「彫刻、絵画、音楽など多くの芸術文化を誇る島バリ。ジェゴグ、ガムランの演奏やバリ舞踊の演奏家や舞踊家など300人を越える村人たちが所属する伝統芸能の代表的なチーム「スアール・アグン」を迎え、バリの芸術について話を聞いていく」というもの。
 もう、稿が長くなりすぎたので、ここでは話の中身に触れないが、ただ一つ印象に残ったのは、ガムランという言葉の意味合いについて。
ガムランについて バリ島のガムラン音楽について」によると、「「ガムラン」とはインドネシア各地の様々な打楽器合奏の総称で、マレー語(インドネシア語)の「ガムル」(たたく)が語源となっています」という。
 ここでは「ガムル」(たたく)が語源となっているが、ガムランというのは、特定の音楽の分野を指すわけではなく、また、特定の楽器や楽器の編成形態を指すわけでもない。それどころか、音楽を指すというより、インドネシアでは、生活そのものに音楽が密着しているので、もう少し(必ずしも日本語にはなりきらないようだが)違ったニュアンスが篭っているようだが、残念ながら、ゲストの方の話された肝心の点をしっかり聞き取ることができなかった。
 残念。

 昨日、車中で聴いたものは他にもいろいろある。演歌やポップスもあるし、ある高名な演奏家(パブロ・カザルス)の演奏も聴けた。これらは、また、機会があったら触れてみたい(クラシックでは、「NHKラジオ深夜便番組表〔ロマンチックコンサート〕▼クラシックを楽しむ~チェロという楽器とチェロのための音楽 音楽プロデューサー 中野タケシ 「無伴奏チェロ組曲第1番」から「パッサカリア」 ほか」に関係するもの、ポップスでは松田聖子の歌う「風立ちぬ」の話)。

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コメント

シュタットフェルト君、本人に昨年聞いたときは2005年の3月に東京と聞いたのですが。TB貼ります。

投稿: pfaelzerwein | 2005/09/06 18:39

pfaelzerweinさん、こんにちは。
「シュタットフェルト君、本人に昨年聞いたときは2005年の3月に東京と聞いた」とは驚きです。さすがというべきか。
ボヘミアの音楽を実際に聴かれたというのも凄いし羨ましいです。
シュタットフェルト氏の弾くバッハを聴いてみたい!
小生も、TBさせてもらいました。
コメント、ありがとう。

投稿: やいっち | 2005/09/07 02:29

急いでコメントしたので忘れたのですが、一般的にタクシーの中でFMを聞ける機会は少なく、大多数のお客さんに合わせた番組が、床屋さんでのように、流されていると思うのですが最近は如何なのでしょう?

どの地方も時間によってAMの人気番組というのが存在して、運転手もお客さんもこれで問題なしと。番組の選定とか要望とか興味あるのです。お客さんはFMを聞きたくても、運転手さんが眠くなってしまうと困りますしね。

それから法人は駄目で個人タクシーならOKというのは、どのような事情があるのでしょう。

投稿: pfaelzerwein | 2005/09/07 13:25

そういえば、タクシーに乗っても、
ラジオがかかってて、それが面白かったことって 覚えがないです。
運転手さんと とくに話すことが無いとき
好きな チャンネルが選べるといいな。
配信の音楽番組を聴くの 飛行機(ほとんど乗る機会ないけど)だと 楽しみにもなっています。

投稿: なずな | 2005/09/07 15:07

pfaelzerweinさん、こんにちは。
タクシー車内でのラジオ環境は、一様ではないと思われます。法人の場合はコスト的にAMラジオが標準装備されているだけで、そこにドライバーの勝手の形でFMを足したり、CDプレーやを設置したりしているものと思います。
個人タクシーの場合は、ラジオはFMAMは勿論、カーナビでテレビも見れる(これも運転手次第)。
我が社の場合、実車中はラジオはオフにするように指導されています。なので小生もボリュームを下げるか、オフにします。
但し、お客さんから要望があれば、野球やサッカー、競馬のチャンネルを選ぶことがあります。FM(音楽)を所望されたことはありません。多少は可能な限りはお客さんの要望に応えられることをお客さんはご存知ないのかも。
とにかく社会常識の範囲内なら、乗車中はお客さんはリビングに居るつもりで、が大切のようです。

>法人は駄目で個人タクシーならOK…

 お客さんの会社が特定の(系列の)タクシー会社と契約している場合が多い。チケットを利用するには、契約している会社を選ぶ必要がある。
会社は、契約先として個人(タクシー組合)を選んでいる場合が多い。料金的に融通が利くのと、法人より車格が個人タクシーのほうが大概、上(排気量が大きい…つまり、豪華)ですから。それと、若干、個人のほうが安い。

投稿: やいっち | 2005/09/08 15:03

なずなさん、こんにちは。
pfaelzerweinさんへのレスにも書きましたが、タクシー内でのラジオ環境(音楽環境)は一様ではありません。AMは大抵、最低限、付いてますが、FMはオプションです。カーナビも会社によって設置されていたり、なかったり。個人的に付けていたり、CDプレーヤーなどを付けていたり。
基本的に車内では(実車中、運転手は)ラジオはオフにするように指導されています(これも、会社によって方針が違う)。
ただ、お客さんから要望があれば、ラジオをオンにするし、求めに応じて、野球やサッカー、競馬の放送にチャンネルを合わせることもある。
音楽についても、お客さんがもう少し我が儘になることは大いに結構です。音楽は嫌いな人は少ないでしょうけど、音楽のジャンルの好みは多様。FMが装備されていることを運転手に聞いて、今、クラシックをやってるから聞きたいと要望(半ば、指示)することは全く問題ないと思います。
ただ、最近は、自分でCDプレーヤー(や携帯)で音楽を聴いている方が多いみたい。
社会的な要望、要するにお客様の声として音楽環境の充実があるとタクシー業界が理解すれば、少なくともFMは標準装備となるでしょうね。
とにかく、実車中は、タクシーの車内はお客様にとってリビングであるべきというのは、理想だし、運転手の心得でもあるようです。

投稿: やいっち | 2005/09/08 15:12

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受信: 2005/09/06 18:40

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