« 音楽三昧? | トップページ | 本日は番外編です »

2005/09/07

海辺と水中と

 米国南部をハリケーン「カトリーナ」が襲おうかという頃、小生は二冊の本を並行して読んでいた。一冊は、レイチェル・カーソン著の『海辺―生命のふるさと』(上遠 恵子訳、平凡社ライブラリー)であり、もう一冊は井上 たかひこ著の『水中考古学への招待―海底からのメッセージ』(成山堂書店)である。
 前者も後者も、あまり新しい本とは言えない。

 カーソンの『海辺』は、出版社のレビューによると、「毎日、干満のリズムを繰り返す海。その永遠のリズムの中に生きる生物たちに、"生命の棲み処―地球"の姿をみた著者。カーソンの原点ともいうべき本書は、海辺のさまざまな環境と生物たちの生態をあますところなく紹介し、伝えてくれる」というもので、カーソンの海辺に生きるさまざまな生物たちへの愛情がしみじみと感じられる。
 カーソンについてはあれこれ綴ってきたので、今は繰り返さないが、ガンという病に冒されつつも、使命感で環境破壊への悲憤でもってパセティックにこれでもかと書いている、一部の企業再度には耳に煩い内容の『沈黙の春』とは打って変わって、作家志望だった彼女が、本当ならこんな本をこそ書きたかったのだろう、彼女の思いが伝わってくるような本である。
 彼女には物語を綴る才能はなかったのかもしれないが(あるいは、あったのかもしれない)、丹念な資料収集と実地の調査とで、事実をややポエティックに叙述する能力・志向は抜群のものがあったと感じる。

 一方、井上氏の本『水中考古学への招待』は、まさに彼が海底の遺跡調査を研究する学問である水中考古学という、当時の日本にとっては馴染みの薄い研究分野に関わっていく経緯が、自身の失敗談なども含め、丁寧に語られている。
水中考古学の冒険 エーゲ海にアンフォラを引上げて』(ピーター・スロックモートン著 水口志計夫訳、筑摩書房刊。水中考古学者が書いた世界初の水中考古学の本とも。初めて考古学者が沈没船を探索し、文化遺産を引き上げたのだった)を読んで以来、この分野に関心を抱いてきた小生には、実際の研究者生活が垣間見られて嬉しい本なのである。
 念のために出版社側のレビューを示しておくと、「海底に眠るツタンカーメンの秘宝、廃墟の海底都市の探検。日本では数少ない水中考古学者の著者が語る、アドベンチャー物語。98年刊の改訂版」である。

 どちらも水中だったり、海辺だったりで、なんだか、小生がこうした分野の本を読んでいるから、ハリケーン「カトリーナ」をアメリカ南部に招来したような、変な気分になりそうで、時期的にも不都合のような気がするし、両方の本共に感想も書けないでいた。

 日本の近海にも、数多くの沈没船や海底遺跡が研究者らの研究の手の差し伸べられるのを待っているはずである。
 たとえば、「水中考古学/船舶・海事史研究」という、そのものズバリのサイトがある。その冒頭に、「水中考古学の薦め」なる一文が載っている。
 そのまま転記していいかどうか分からないが、リンクも面倒がる人が多そうだし、ちょっと一部を転記すると、「人間の新しい環境に乗り出していく好奇心と挑戦心が物質的にあらわれたもの、それが“ふね”です。考古学は水中であれ地上であれ基本とすることは全く同じです。過去を愛する人、遺物を将来のために守っていく心を持った人の集まりが水中考古学を発展させていくことでしょう。トレジャー・ハンティングや水中考古学まがいのものが日本では認知されてきていますが、考古学の目的は遺跡・遺物の保護です。過去を大切にすること、それが第一原則です。今こそ日本人の海への関心を高めるべきです。地上の重力に魂を束縛された人間の心を解放し、水中遺跡の関心を高めていく。それが私の使命だと考えています」というのだ。

鷹島海底遺跡体験レポート」という頁があって、「ジョージ・シュワルツさんが日本の水中考古学発掘の体験レポートを書いてれました」という様子が、画像なども付せられて示されている。
 ちなみに、鷹島(たかしま)海底遺跡というのは、元寇(げんこう)の際に台風<神風>に見舞われ海に沈んだ数百隻のモンゴル船の遺跡である。
「大王のひつぎ」実験航海 九州発 YOMIURI ONLINE(読売新聞)」を参照。
[ 小生には多少関連する雑文として、「日本の巨石文化そして古代ロマン」があり、その中でも鷹島海底遺跡のことに触れている。尚、『水中考古学への招待』でも2002年改訂版の中で、鷹島海底遺跡について触れられている。 (05/09/08 追記)]

 小生などは、つくづくと思うのだが、学生時代を通じて勉強は嫌いだったが、しかし、それは自分の視野が狭かったのだと、今更ながらに思うのだ。たとえば、水中考古学のような学問があるのなら、苦労はしてもやりがいを感じたのではなかったか。
 国語や理科や数学や社会というのではなく、実際の学問の現場を先生方も紹介する努力があれば(あったならば)と思う。ちょっと他力本願かもしれないが。

 日本の海底遺跡というと、フリーダイバーの第一人者で女優の高樹沙耶さんも潜った、与那国島の<海底遺跡>も興味深い。まだ、完全に海底遺跡として認定されたわけではないようだけど。
 リンク先の画像は必見(?)かも。

「大王のひつぎ」実験航海 九州発 YOMIURI ONLINE(読売新聞)」にも書いてあるが、「日本では琵琶湖(滋賀県)の湖底遺跡が有名。縄文~弥生~古墳にかけての漁村遺跡で、いまでも遺物が漁師の網にかかる。数少ない古代の水中遺跡の中では、大規模な遺跡と言える」のだとか。

 青森県市浦村の十三湊(とさみなと)遺跡も、「津軽地方の豪族・安藤氏が築いた東日本最大の中世港湾都市」の遺跡ということで興味がある。
海のニュース」によると、「十三湊遺跡は汽水湖の十三湖に突き出た半島状の砂洲に築かれ、推定規模は約55万平方㍍。整然と区画された町並みがほぼ完全な形で残されている」とか。その後の成果はどうなのだろう。

|

« 音楽三昧? | トップページ | 本日は番外編です »

科学一般」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/52847/5823661

この記事へのトラックバック一覧です: 海辺と水中と:

« 音楽三昧? | トップページ | 本日は番外編です »