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2005/09/28

嶋岡 晨著『現代詩の魅力』抜粋(4)

 本稿は、「嶋岡 晨著『現代詩の魅力』抜粋(1)」や「嶋岡 晨著『現代詩の魅力』抜粋(2)」、「嶋岡 晨著『現代詩の魅力』抜粋(3)」に続くものである。
 これまでは詩の世界にも明るくない小生でも名前くらいは、詩の幾つかは知っていたり慣れ親しんだりしてきたものが多かった。詩的感受性も何もないのに、詩の世界に親しもうと背伸びしていた学生時代、小生は何故か主に金子光晴の世界に触れようとすることが多かった。
 そのことは書いたことがないはずなので、機会を設けて学生時代など若い頃にドップリと浸った世界に探針を下ろす試みの一端として描いてみたい。
 情ないことに中原中也はともかく、学生時代は未だ、宮沢賢治の詩の魅力にも感じる土壌が小生にはなかった。それほどに不毛だった? あるいはもっと他の世界に気が奪われていた? 
 ま、今は詮索は止めておこう。
 例によって、記事を書くに当たっての表記方法などについての注意事項その他は、上掲の記事に書いた留意点を参照願いたい。
 さ、嶋岡 晨著『現代詩の魅力』から、引用されている詩の断片の抜粋する作業を始めよう!

 尚、今回は、以前書いたあともう一歩で詩文になるかという小生の拙稿を末尾に載せました!

峠 三吉「仮繃帯(ほうたい)所にて」は、「詩人の数々…峠三吉や森鴎外」を参照のこと。

高村光太郎「典型

今日も愚直な雪がふり
小屋はつんぼのやうに黙りこむ。
小屋にゐるのは一つの典型、
一つの愚直の典型だ。……

(註)高村光太郎については、季語随筆「東京は坂の町でもある」の中の「東京の坂道:ゼームス坂篇(03/03/08)」を参照願いたい。


小野十三郎「放棄の歌」(『大海辺』より)

イソシギの渡りも絶え
アジサシの群れもゐない。
ただ見る釉面(いうめん)のひびきわれのやうな土地のひろがり。
食物移動や
光力説よりも純粋に
天の小禽(ことり)は知つてゐるのだ。
煙は雲に這ひ
また地上にかへつてゐる。


鮎川信夫「死んだ男

たとえば霧や
あらゆる階段の跫音のなかから、
遺言執行人が、ぼんやりと姿を現す。
……これがすべての始まりである。

(中略)

きみはただ重たい靴のなかに足をつっこんで静かに横たわったのだ。
「さよなら、太陽も海も信ずるに足りない」
Mよ、地下に眠るMよ、
きみの胸の傷口は今でもまだ痛むか。


三好豊一郎「囚人

真夜中 眼ざめると誰もゐない――
犬は驚いて吠えはじめる 不意にすべての睡眠の高さに躍(と)びあがらうと
すべての耳はベッドの中にある
ベッドは雲の中にある

孤独におびえて狂奔する歯
とびあがつてはすべり落ちる絶望の声
そのたびに私はベッドから少しづつずり落ちる……


田村隆一「四千の日と夜

一篇の詩が生れるためには、
われわれは殺さなければならない
多くのものを殺さなければならない、
多くの愛するものを射殺し、暗殺し、毒殺するのだ

見よ、
四千の日と夜の空から
一羽の小鳥のふるえる舌がほしいばかりに、
四千の夜の沈黙と四千の日の逆光線を
われわれは射殺した……


飯島耕一「他人の空

鳥たちが帰って来た。
地の黒い割れ目をついばんだ。
見慣れない屋根の上を
上ったり下ったりした。
それは途方に暮れているように見えた。

空は石を食ったように頭を抱えている。
物思いにふけっている。
もう流れ出すこともなかったので、
血は空に
他人のようにめぐっている。


谷川俊太郎「かなしみ(『二十億光年の孤独』より)

あの青い空の波の音が聞えるあたりに
何かとんでもない落とし物を
僕はしてきてしまったらしい

透明な過去の駅で
遺失物係の前に立ったら
僕は余計に悲しくなってしまった


誰もいない森の音

 森の奥の人跡未踏の地にも雨が降る。
 誰も見たことのない雨。流されなかった涙のような雨滴。
 誰の肩にも触れることのない雨の雫。
 雨滴の一粒一粒に宇宙が見える。
 誰も見ていなくても、透明な雫には宇宙が映っている。
 数千年の時を超えて生き延びてきた木々の森。
 その木の肌に、いつか耳を押し当ててみたい。
 きっと、遠い昔に忘れ去った、それとも、生れ落ちた瞬間に迷子になり、
 誰一人、道を導いてくれる人のいない世界に迷い続けていた自分の心に、
 遠い懐かしい無音の響きを直接に与えてくれるに違いない。

 その響きはちっぽけな心を揺るがす。
 心が震える。生きるのが怖いほどに震えて止まない。
 大地が揺れる。世界が揺れる。不安に押し潰される。
 世界が洪水となって一切を押し流す。
 その後には、何が残るのだろうか。それとも、残るものなど、ない?
 何も残らなくても構わないのかもしれない。
 きっと、森の中に音無き木霊が鳴り続けるように、自分が震えつづけて生きた、
 その名残が、
 何もないはずの世界に<何か>として揺れ響き震えつづけるに違いない。

 それだけで、きっと、十分に有り難きことなのだ。

(「誰もいない森の音」より。一部、改編)

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