嶋岡 晨著『現代詩の魅力』抜粋(2)
表題から明らかなように、「嶋岡 晨著『現代詩の魅力』抜粋(1)」に続く記事である。
意図や表記などの注意事項などは、上掲の頁に準じる。
←昨夜半過ぎの都内某所。路面が濡れている。
付記すべきことは一点。リンク先のHP(URL)を略していること。覗いた頁からすぐに飛べるとは思うけれど。ただ、リンク先には、詩の全文が載っているはず、表記は若干違う場合が多いのだが。
前回は、吉本隆明も敬愛していたという高村光太郎の、ある意味典型でもある「牛」までを部分転記したところで終えていた。
では、続きを早速! まずは萩原朔太郎から。
萩原朔太郎「地面の底の病氣の顔」(『月に吠える』より)
地面の底に顔があらはれ、
さみしい病人の顔があらはれ。
地面の底のくらやみに、
うらうら草の莖が萌えそめ、
鼠の巣が萌えそめ、
巣にこんがらかつてゐる、
かずしれぬ髪の毛がふるえ出し、
山村暮鳥「風景」(傍題「純銀もざいく」
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
かすかなるむぎぶえ
いちめんのなのはな
山村暮鳥「雲」
おうい雲よ
ゆうゆうと
馬鹿にのんきさうぢやないか
どこまでゆくんだ
ずつと磐城平の方までゆくんか
高橋新吉『るす』
留守と言へ
こゝには誰も居らぬと言へ
五億年たつたら帰つてくる
吉田一穂「母」(『海の聖母』より)
あヽ麗はしい距離(ディスタンス)、
つねに遠のいてゆく風景‥‥
悲しみの彼方、母への、
捜(さぐ)り打つ夜半の最弱音(ピアニッシモ)。
安西冬衛「春」(『軍艦茉莉(まり)』より)
てふてふが一匹韃靼(だったん)海峡を渡って行つた。
安西冬衛「馬」(『検温器と花』より)
軍港を内臓してゐる。
三好達治「雪」
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
(註)ある学生が「眠らせ」を「殺し」と受け止めていたとか…。
佐藤春夫「秋刀魚の歌」
あはれ
秋風よ
情(こころ)あらば伝えてよ、
夫を失はざりし妻と
父を失はざりし幼児とに伝えてよ
― 男ありて
今日の夕餉(ゆふげ)に ひとり
さんまを食(くら)ひて
涙をながす、と。
さんま、さんま、
さんま苦いか塩っぱいか。
室生犀星「小景異情・その二」
ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食(かたゐ)となるとても
帰るところにあるまじや……
(註)偶然、我が母校の先輩のサイトをヒット!
宮沢賢治「永訣の朝」
けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいっさう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる
(あめゆじゆとてちてけんじや)
青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
(あめゆじゆとてちてけんじや)
蒼鉛(さうえん)いろの暗い雲から
みぞれはびちょびちょ沈んでくる
……
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