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2005/08/25

「走馬燈と影絵と」補遺

走馬燈と影絵と」(August 23, 2005)と題した記事について、ある方が情報を寄せてくれた。
 ネット上に、「走馬燈」の語源などについて、以下のような記述があるというのである:

走馬灯とは、明治時代初期に官吏が乗っていた、頭に赤い電灯を載せた馬のことだそうです。人斬り等重大犯罪があると、その場に凄い勢いで走馬灯を駆って官吏が現れたので、壮絶な勢いで記憶が流れていくことをこのように表現するようです。

 急遽、ネット検索をして調査してみた。すると、上掲のような、というより、全く同じ記述内容で「走馬灯」のことを説明しているサイトが幾つか見つかった。
 小生は、コメントへの返事として、とりあえず、以下のように書いた:

ネット検索したところ、全く同じ記述が複数サイトで見つかりました。ということは、同じ典拠に由来するものと思われます。が、どんな典拠なのかが全く示されていない(典拠が示されていないのも、どのサイトにも共通する特徴。記述が引用されているサイトが共に、あまり参照したくないような雰囲気が漂っている点も共通する…)。 よって、この記述については、真偽(信憑性)の点において、今のところ保留にさせてもらいますね。

 典拠が示されていない以上、正しいかどうかの判断もできない。けれど、上掲の説明は一読して不審に感じられてしまう。
「明治時代初期に官吏が乗っていた、頭に赤い電灯を載せた馬」とあるが、パトカーなどが緊急の際に点滅させる赤い電灯のようなものが、それに類似するものだとしても、明治時代初期にあったろうか。
 確かに官吏(の一部)は馬に乗って巡回などしたりもしていたようだが。

 明治の初期に、携帯できるような便利で丈夫な電灯(充電・電池による)が実用的な形であったはずがない。

 では、灯篭のようなものを馬に載せていたのだろうか。
 灯篭の中は、油で燃える灯心があった? お馬さんがゆっくり、ポックリポックリ歩くのならともかく、時には「人斬り等重大犯罪があると、その場に凄い勢いで走馬灯を駆って官吏が現れ」るとなると、灯篭(その他)の中の灯心は燃え上がって灯篭が燃えてしまうか、でなかったらいずれにしても呆気なく振動や風で消えてしまったに違いない。
 つまり赤色灯の役目は果たせないだろう。
 どっちにしても、走馬灯に担わされたニュアンスは、「壮絶な勢いで記憶が流れていくこと」とはそぐわないわけである。
 小生は、上掲の説明を頭から否定はしないが、仮に「走馬灯」の語源や由来として、そうした説明を施すサイトがネット検索の挙げ句、見つかってもっても、無視するか、そんなサイトがあるようだがと、参照程度に留めるに違いない。
 文章の内容の妥当性、時代考証などで、あまりに突飛な説明は信憑性のある記述として採らないし、紹介もしないわけである。
(ネットで情報を発見したからといって、その全てを安易に紹介するわけにはいかない。最後の取捨選択は、書き手(紹介するもの)の常識や判断力が問われるわけである。)

 小生は、日々、ネット検索で得た情報を参考に文章を綴っている。その際、とにかく自分なりの判断基準で情報の確度を決めている。季語随筆は、知らない言葉を知りたい、言葉に絡む風習や風俗を知りたい、言葉の背景にあるもの、語源、言葉への思い入れを感じ取りたい一心なのである。
 基本的に知っていることは書かない。書く意欲自体が湧かないからである。
 だから、日々書いてあることは、小生が知らないからこそ、知りたいと思って書いているものと思っていいわけである。
 書くとは、表現することだが、同時に想像力を駆使しての体験でもある。単に知識を広めようという発想は小生には微塵もない。日々生活するように、何事かを体験するように、ネットという一見すると虚構の世界であるかのような世界にあっても、自分なりの実感と体験を得ようと努めているつもりなのである。
 でも、人様にはどのように映っているのだろうか。

 どうにも気になるので、一応、図書館へ行って、「走馬灯」について、事典(辞典)などに当たってきた。
 以下は、「NIPPONICA 2001」での説明である:
somato-sirokuro
somato-color

風車や炎による空気の対流作用で回る影絵の紙灯篭。中国から伝来したもので、江戸時代初期、宗教的色彩の濃いものからしだいに変化して、元文(げんぶん)年間(1736-41)以後、遊戯的な技巧やくふうが加えられ、夏の納涼玩具として発達した。江戸では錦絵の版下職人などの内職として商品化されたほか、家庭の細工物としても普及した。現在も夜店などで売られる。構造は、薄紙または寒冷紗(かんれいしゃ)で四方を張った角形の枠の中に、紙をいろいろな形に切り抜いたものを取り付けた筒を入れる。筒は上部を風車式にして回転できる。中心にろうそくを立てると、炎が起こす気流の動きで筒の部分が回転し、シルエット風な形が外側の紙に灯って映る。
  「NIPPONICA 2001」には画像は載ってなかった。が、講談社の「日本語大辞典」にはカラーのもの、岩波書店の「広辞苑」には白黒の走馬灯の図が載っていた。  なお、「広辞苑」によると、「走馬灯」は、「回り灯篭」のほか、「舞灯篭」とか「影灯篭」などの呼称があったと教えてくれた。  ついでながら、どの辞書にも全く異なった説明(上掲の、頭に赤い電灯を載せた馬式のものも含め)はなかったことを付記しておく。  情報を寄せてくれた方、調べる機会を与えてくれて、ありがとう!

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コメント

はじめまして。走馬灯を検索していてこちらに辿り着きました。
以前検索した時に、頭にランプを着けた馬の記述を見つけたのですが、「ランプが頭に付いた馬・・・なんか漫画チックだし、明治以前には言葉自体が無かったということに?」と、不思議に思えてきまして、今一度検索しなおした次第です。
し直してよかった(笑)

あと、こんな記述も見付けました。
なかなか面白いと思いましたがいかがでしょうか?

http://g3400.nep.chubu.ac.jp/onsenkids/craft/thaumatrope/sohmatoh.html

投稿: 恵美 | 2005/12/16 19:38

恵美さん、こんにちは。
「ランプが頭に付いた馬…」なんて、変ですよね。
せめて松明を翳した馬だったら格好いいけれど。


リンク先、覗いてきました。
日本において走馬灯という言葉が出来たのはいつだったのか。古風な表現だと、「回り灯籠」があります。
それが走馬灯と称されるようになったのには、「ソーマトロープ」という外国語が幕末にでも日本に入ってきて、その訳語として造語されたってことはないのかなって、ふと、憶測しています。
ソーマトロープ → 走馬ロープ → 走馬灯
結構、すんなりつながりそうですしね。
ま、そんな妄想も誘ってしまうのも走馬灯の魅力の一つなのかもしれないですね。


投稿: やいっち | 2005/12/17 01:29

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