ヨットの帆ならぬ
本日、夕方、帰京した。
帰郷した18日は、関東に梅雨明け宣言が出ていたと、田舎に着いて、夕方のテレビを見て知った。梅雨の終わりということで雨を覚悟のバイクでの帰省。関東はともかく、甲信越のどこか、長ーい長野県の何処かしら、あるいは少なくとも北陸地方に差し掛かったところでは、一雨くらいはくるだろうとは思っていた。
が、最初から最後までピーカンの晴れ。関東地方を離れ、山梨から長野にかけての山間(やまあい)、あるいは信州や信濃地方などの主に千曲川を越えた先などを走る際には、それまで晴れていた空の彼方に不穏な黒雲が急に湧き出すように見えてくる…そんな経験を何度、重ねたことか。
しかも、北陸地方は梅雨明けしていないのである。
こんなに天気の事をくだくだ書くのも、バイクでの帰省なので、気象条件には神経質に成らざるを得ないのである。
雨のことばかりを書いている。が、小生が一番、怖いと感じるのは風である。バイクは風の友達なんて、気取って言う人もいるけど、それは、走ることによって受ける風。百キロ余りで高速道路を走れば、地上世界は一切、風が吹いていなくても、走行風が秒速で30メートルほどとなる。
なかなかの風だ。
が、これは走ることによって発生する風で、こうした風圧は、バイクのスピードを調節することでいつでも緩和することができるし、そもそも地上が無風での走行は雨さえなければ(無論、雪などは論外)、何も不安を覚える要素などありえようはずがない。
小生が怖いのは、気圧の変化などに応じて発生し、地上世界を吹き渡る風のことである。台風は問題外として、高速道路などは、基本的に見晴らしのいいところ、開けたところを走っているわけだし、あるいは橋の上、つまり川の上などを走ったりしている。
いずれにしても、基本的には風は吹きたいように吹く。
東京から北陸へ向かうには、山間部を縫うようにして走っていくしかないので、山、谷、川、河原など、風の吹き抜けやすい、また、高度の変化も大きく気圧の変化を招きやすいので、とにかく無風という状態となることはない。
ところで、風に過剰なまでに神経質になったのにはわけがある。しかも、自分自身の不徳の致すところだったのである。
小生は、オートバイの免許を取得して三〇年を超える。最初のうちは、オートバイ専用のウエア(ジャケット、ヘルメット、グローブ、ブーツなど)をそろえる。ちゃんとバイク専門店で買い揃えるのが当たり前だった(もっとも、学生時代は、ヘルメットも中古なら、ジャケットも普段着だったりした。雨合羽も安売りのもの)。
が、十年、二十年と乗っていくうちに段々と雑になってくる。ヘルメットは耐用年数(メーカー推奨は2年から3年)を遥かに超えて十年もの。グローブは穴だらけだったり、タウンユースの手袋を間に合わせに援用し、バイク専用のブーツを最後に買ったのは二十年ほども昔のことだったか。
合羽も、二十年程前に会社の付き合いでゴルフを始めた時に、ゴルフ用に買ったものを今も愛用している。この耐久性は大したものだ。ただし、それは上のほうだけで、レインパンツは一年もしないうちに紛失。長く、スーパーで買った数百円のものを着用。が、オートバイには間に合わない(けど、穿くしかない)。
が、問題はジャケットなのである。風とジャケット。一体、どんな関係があるか。
ジャケットは十数年前からタウンユースのジャケットをオートバイに乗る際にも着用していた。町中を走行するのは、雨が襟元、裾から、手首からと、あちこちから漏れ込んでくるのは我慢するとして、それ以外は、特に問題ない。
が、高速道路となると。
何も、高速道路で走ると、雨が激しく染み込んでくる…という問題ではなく、ジャケットが街着なので、体にフィットしておらず(サイズが合わないという意味じゃなく)、高速道路を走ると、ジャケットが風を巻き込んでしまって、ちょうど、ヨットの帆のような状態になるのである。
長年乗っていて、そんな可能性は重々分かっていたはずだが、やはり、次第に横着になっていて、街着のジャケットのままに高速道路を走ると、容易にヨットの帆の状態になることは分かりそうなものなのに、何年間も気づかないでいた。
で、五月の連休やお盆の際にバイクで帰省する度に、ジャケットがバタバタして、風圧の為に道路上の白線を思わずジグザグに走ってしまったりなどの怖い目に遭い、 なのに、本人は原因が分からず、バイクのバランスが悪いのか、ライディングする自分の姿勢が悪いのか、などとあれこれ邪推し、ああ、これは風がやたらと強く吹いているからだ、橋の上とか切り拓かれて風の吹き抜けやすいところは十分、注意しないと拙いぞ、などと考えるしかなかった。
それでも、バイクが一瞬、ぐらつくほどに揺れる。何故なんだ?!
とうとう、風恐怖症になってしまったのだった。
その原因は、上記したように、ジャケットがライダー用ではなく、襟元から風を巻き込み、ジャケットが帆のように、風船のように膨らんで、ヨット状態となって、結果、バイクがよれよれしてしまう。
この単純極まる原因に気づくのに数年を要してしまった。あまりに長く、怠惰なウエアでの走行を続けていた結果なのである。
数年前、遅まきながら、原因に気づき、体にフィットするジャケットを着用して高速道路などは走行するようにした。といって、この不況でバイク用のジャケットは買えないので、冬用のジャンパーを夏の高速道路を使っての帰省の際に着用する。冬用のジャケットはたまたま体にピッタリのサイズだし、隙間風もシャットアウトできるようなホックが付いていたりするので重宝だったのだ。
ただ、真夏に冬用のジャケットなので、見る人が見たら、この人、変! ということだったかもしれない。
ちなみに、だが、高速道路での風の恐怖を覚え始めた頃、それが小生の執筆活動開始の時期とほぼ符合している。理由は分からない。ただ、ライダーとしてのキッチリした姿勢を取れなくなる(あるいは、もっと言うと、日常生活が乱れてくる)時期でもあったということは言える。
で、風と戦う高速走行に神経がヘトヘトになったものだから、或る日、ある連想、それとも妄想が蠢きだして、風がもっと強烈・強靭・苛烈になって、コンクリートのようになり…、とうとう高速のはずが光速となってしまって…云々という小説を書いたことがあった。
小生の初期の虚構作品の一つ(のテーマ)になるほど、風が怖かったのだ。無事、高速道路走行から帰着すると、安堵の胸を撫で下ろしたものだった。
さて、今回の帰省に際しては、清水の舞台から飛び降りるつもりで、ライダー用のジャケット、グローブ、ブーツを購入した。二十年ぶりだろうか(ヘルメットは手が出なかった)。
で、いかにもライダーという格好で高速道路を走ってみたら、まあ、今回は天気も味方してくれていたこともあるが、橋の上など、平地では無風でも横風のある場所でも、実に快適に、安心して安定した走行を続けることができた。
ああ、ただこれだけのことに遅まきながら気づき、対策を打つとは。
往復で980キロ。田舎で二泊の帰省ツーリングだった。
田舎では、なんとなく身辺の変化の予感。これは、私事なので、手元の手書きの日記にメモする。時が経れば、人間も変わる。時代も変わる。まあ、そんな変化の波が自分(や身内など)にも押し寄せているということか。
風を呼び嵐を呼んでの自作自演
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コメント
やいっちさん、お帰りなさい。
私も例えば繋ぎの正装をした事が無いので分かりませんでした。安全性と抵抗を抑えて早く走る位の意識はあったのですが、走行が安定すると言うまでは考えが至りませんでした。
何時かまた二輪で走る経済的余裕が出来ればと思います。
投稿: pfaelzerwein | 2005/07/22 14:08
pfaelzerwein さん、こんにちは。
小生も、ツナギは二十年程前、持っていたけれど、着る機会がなくて死蔵されてます。
あくまでライダー専用のジャケットが肝心。風の影響の違いを痛感しました。大違いです。
いつかまた二輪で走る…ということは、以前は乗っておられたのですね。
小生も経済的な余裕などないのですが、中古の我がバイクは重宝していて、時間的な余裕もないし、通勤時間を減らすためにも(電車・バスだと往復で二時間以上。バイクだと往復で三十分)バイクは手放せないのです。
投稿: やいっち | 2005/07/23 12:04