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2005/07/02

青柳いづみこ、ドビュッシーを語る

「読書雑録」(2005.06.29)の末尾で、「余談ついでだが、夕べ、NHKラジオ(第1放送の「ラジオ深夜便」)でピアニストの青柳いづみこさんのお話を聞きかじった。彼女が好きだというドビュッシーについての話だったと思う」などと書いている。
 肝心の話の内容は、小生のこと、聞きかじった部分でさえも聞き漏らしている(変な表現でごめんなさい)。
 この稿にコメントを寄せてくれた方がいて、どんな話だったのでしょう、という問い掛けがあったが、答えたいのは山々なれど、できないものはできない。
 なので、前回は時間がなくて全く書けなかったこともあり、個人的な興味もあるので、ネットの強みを生かして、若干のことを(示唆する程度になると思うけれど)メモしておきたい。

 青柳いづみこさんは、ピアノと文章の両方の達人の方。文章はパソコンを使って書いているらしいが、つい、指に力が入ってピアノの演奏に差し障りが生じかねない時もある、だから、演奏する機会が近づいた時は、できるだけ控えるようにしているが、それでも、求めに応じて書く原稿の予定も多く、大変だとか。
 まあ、そういった文章を書くこととピアノとの両立の大変さを最後の晩には語っておられた。

 小生は、ピアノは(学生時代にちょっと触ったけど→「雨音はショパンの」)弾けないし、そもそも音楽は学校では苦手だったし、文章も見ての通りの体たらくなので、彼女に比べられるのは辛いが、ただ、キーボードを使っての入力は、辛いと思ったことはない。当然、肩が凝るとか、指先や腕などに腱鞘炎的な支障を来たすこともなかった。
 というのも、以前、会社で英文タイプを使っていたので、一応、キーボードでの入力の基本を教材などを使ってそれなりに訓練などしたことがあるのだ。青柳いづみこも、ピアノはきちんと習われたようだし(失礼な言い方を謝っておきます)、タイピングも基本を習えば、指にも腕にも何の支障も生じないと思われる(老婆心)。

 さて、話はここからが本番となる。小生が青柳いづみこさんによるドビュッシーについての話で一番、面白かったのは(恐らく、彼女も強い関心を抱いておられると思う)、ドビュッシーとオカルトとの関係の話だった。
 とはいっても、小生は話をほとんど聞けなかったし、聞けた部分は忘失してしまった。
 なので、ネットで参照あるいは関連すると思われる情報を収拾紹介してみたい。
Keiji Matsumoto Interview 2000」を覗いてみる。表題は、「近況編 ~松本圭司のやりたい音楽とは? 
T-スクェア在籍期間をふりかえる~」となっている。
 関係する話は、以下の部分である。前後の脈絡に関係なく、勝手に一部だけを転載する。興味のある方は、どうぞリンク先を御覧下さい(「」内は松本氏。-以下はインタビュアーの発言):

「そうなんですよ。それが悩みなんです。僕はそういう部分じゃないところを出していきたいんだけど、それがすごく難しい。はっきりいってもっと暗黒な音楽をやりたい。だけど、できない。なんでできないのか、わかりませんよね」

-ちょっとクラシックの話になっちゃうんですが、その悩みって、ドビュッシーも持っていたらしいんですよ。ドビュッシー研究家の青柳いづみこさんって方が最近言って いることなんですが。
 ドビュッシーは印象派で、きれいな音楽の代表みたいに言われている。 だけど、彼自身はものすごくオカルトに興味があって、晩年の10年間は「アッシャー家の崩壊」っていう、ポーの怪奇小説を素材にしたオペラを書こうとしていた。
 でも、そういう狂気や恐怖の世界を音楽にするのが難しくて、結局オペラは完成できないままにドビュッシーは死んでしまったんです。きれいなものと、おどろおどろしいものの両立は、ドビュッシーにとっても難しかったらしくて。

「ああ、でもね。そんな僕はクラシックなんて詳しくないけど、ドビュッシーの有名な曲で、月の光だとか、牧神の午後への前奏曲とか、ああいうのを聴いて、その『陽』と『陰』の部分は、持っていると思うけど。なにげないハーモニーとか、もっとクリアな和音を選ぶこともできたはず。僕はそう思いますし、そういうところ、好きですよ」

 ドビュッシーとオカルトや文学、あるいは文学者らとの付き合いについて、一層、詳しいのは以下のサイト:
ヌース学と神秘学
 ドビュッシーの父親は普仏戦争から続いて起きたパリ・コミューンに「参加し、国民軍の中隊長として戦闘の指揮を取った」とか。「父親のように銃を手に取ったわけではないが、何ものをも恐れず火のように前進する性質を、父親から受け継いでいるのではないだろうか」という(詳しくは上掲のサイトを)。

 少年時代のドビュッシーに影響したことで大きかったことは他にもある。「少年時代のもうひとつの出来事は、ヴェルレーヌとランボーというカップルに間近に遭遇したことである」という。
 ドビュッシーのピアノレッスンは、デカプリオの映画「太陽と月に背いて」で描かれていた、あの家の中で始められたのだった(これも、詳しくは上掲のサイトを)。

 同じく、このサイトによると、「ドビュッシーは音楽のインスピレーションを文学から多く得ている」として、「世紀末のカリスマだったボードレール(『ボードレールによる五つの詩』)やヴェルレーヌ(『艶なる宴』等)はもちろん、「火曜会」のマラルメ作『半獣神の午後』から「牧神の午後」が生まれた。古代ギリシャの同性愛を詠ったピエール・ルイスからは『ビリティスの歌』、そして神秘主義に傾倒したメーテルリンクの台本による『ペレアスとメリザンド』など、文学者との交流から生まれたものには枚挙にいとまがない」とある。

 そしていよいよオカルトとの関係が、「神秘学者としての顔」なる項で示されている。「ドビュッシーが傾倒した文学者たちにはある共通点がある。 それはオカルティズム=神秘学への興味と探求である。ドビュッシー自身、神秘学には深い造詣があったといわれており、それは世紀末のひとつの流行だったとはいえ、とても深く彼を魅了したものらしい」というのだ。

 文中には、「ドビュッシーがどの程度、真剣に神秘学に取り組んでいたのかはわからない」とあるが、実は、ドビュッシーは神秘学を真剣に研究したらしい。
 というのは、「近年、ドビュッシーがある秘密結社のグランド・マイスター(総長)だったという、驚くべき資料が発見された」というのだ。「ドビュッシーはその33代総長とされており、歴代の総長の中には、ダ・ヴィンチ、ロバート・フラッド、ニュートン、ユーゴー、コクトー等がいる」という。

 青柳いづみこさんの話の中でも言及されていたダン・ブラウン著の『ダ・ヴィンチ・コード』(越前 敏弥訳、角川書店)。殺人の被害者は、秘密結社の総長だという(小生、悲しいことに未読)。彼女としては、彼女なりのドビュッシー・コードを描きたいのではなかろうか。
 ちなみに、ドビュッシーに関係する文献のある施設では、最近、ドビュッシーについての文献が何故か借りられなくなっているとか。以前はあった資料の項目自体がなくなっていたりとか。こうなると、いよいよドビュッシー・コードのムードが高まるばかりである。

 青柳さんがドビュッシーに魅せられたきっかけは、高校1年生のときに聴いた「巷に雨が降るごとく」だったという。一体、どんな曲なのだろう。聴いてみたいものである。
 詳しい話などは、青柳いづみこ著『双子座ピアニストは二重人格?  ──音をつづり、言葉を奏でる』の中で読めるのかも。
 ちなみに、「井伏鱒二、太宰治らの集った、東京・阿佐ヶ谷文士村という独特の環境のなかで生まれ育った青柳いづみこは、幼い頃から豊かな芸術にとり囲まれてい」て、「彼女にとって芸術は、玩具であり、友であり、時には恋人となり、拠り所ともなりました。心をまかせていたさまざまな芸術の中から、青柳はやがて音楽を選び、ピアニストの道に進みましたが、それだけでは飽きたらず、本格的な文筆に手を染めることになりました」という(「青柳いづみこ オフィシャルサイト」より)。

 最後に来て余談もなんだが、ドビュッシーと神秘学(オカルト)との関係、文学趣味は、ドビュッシーの音楽理解のためには重要だとは思うが、火曜日の夜中だったかに聴いたピアノ曲「月の光」は、そんな予備知識など一切関係なく、美しかった!

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コメント

弥一さん、なるほど~興味深いです~。
なるほど、やっぱり面白い話をしてたんですね。
ドビュッシーとオカルト・・・、これは、全然不思議じゃない気がします。
松本氏が言われてるように、聖歌や民謡からの素朴な音の組み合わせ、素朴な表現から古典派・ロマン派と進んで来て、印象派では大分音楽が芸術として成熟して来る。綺麗・楽しい・悲しい・恋愛などの表現から一歩進めて、それ以外の世界を模索した時代ですからね。音を聴いても、わざと少しはずしたり、メロディーを無くしたり・・・。
ドビュッシーの音楽には、特に「幻想」という言葉を感じるのです。
ヴェルレーヌとランボーにも接点が有ったんですね。なるほど。映画、ぜひ見たいなぁ。
「巷に雨が降るごとく」は、歌曲かな。「都に雨が降るように」とも訳されますね。
詩はここで読めます。
http://windy.vis.ne.jp/art/lib/pleure.htm
「月の光」、ほんとに美しい曲ですよね・・・。私、最初にこれを聴いた時、こんな綺麗でぴったりくる音楽があるのなら、頑張ろうかと・・・笑。「ああ、ここにあった」という感じ。
でも、ドビュッシーはけっこう好き嫌いが別れて、メロディーがはっきりしていてシンプルな捉えやすい曲が好き、という方には嫌われるんです。子供にも嫌われるんですよ。先生は弾かせたいのに。ちぇっ。ー笑

投稿: hironon | 2005/07/02 13:00

hirononさん、コメント、ありがとう。
青柳いづみこさんの話、実際に聴けたのはほんの一部だけだったのです。6月27日(月)~30日(木)の4夜あり、それぞれが8分のトークと4分ほどのCD演奏。小生が辛うじて聴けるのは、そのうち2夜分だけ(しかも、聞きかじり)。短い中に、もっといろいろ興味深いはなしをされていたのだろうと思います。
多分、新刊の『ピアニストが見たピアニスト──名演奏家の秘密とは』についての話もあったのではないか…(推測ですが)。近く、本書(白水社)出版記念ということで「青柳いづみこ(トーク&フィルム)門天ライヴ II」をやるというし(詳細は、本文に紹介した「青柳いづみこ オフィシャルサイト」を覗いてみてください)。
ドビュッシーの曲、子どもに向いていないわけじゃないでしょうけど、分かりやすい曲ではないのかも。さりげなく、他のポピュラーな曲に紛れ込ませて教えてしまうってのは、どうでしょう。
ヴェルレーヌの詩「巷に雨が降るごとく」の原詩と訳詞全文の案内、ありがとうございます。
ところで、ドビュッシーには(雨つながりで言うと)「雨の庭」という曲があるとか。ネットで見つかったので聴いてみたけど、これまた不思議な曲調だった:
http://www.geocities.jp/dazaiosamujp/oto/ame.mid((23,7KB) midi形式 )
でも、ユーモラスなような、同時に日本情緒が漂っているような気もした。ますます、ドビュッシーの世界が気になる!

投稿: やいっち | 2005/07/03 11:05

追記:ヴェルレーヌの詩「巷に雨が降るごとく」のこと。
この詩、まるで詩には縁のなかった小生だが、何故か凄く馴染みのある、ずっと遠い昔に何かの形で触れた事があるから…と記憶を辿ったら、エノケンこと榎本健一が主演した同名タイトルの映画(山本嘉次郎監督)の再放映を中学か高校の時に(テレビで?)観たことがあって、まあ、映画もよかたのでしょうけど、映画の中でこの詩を誰かが朗読する…。そのうち、映画よりもこの詩がちょっと流行っていたような。その際の詩は、「巷に雨の古(降る)ごとく われの心に涙ふる かくも心ににじみ入る この悲しみは何やらん」だったような。堀口大學訳:
http://www.music.ne.jp/~yasuko/rayon40.htm

投稿: やいっち | 2005/07/03 11:27

私もドビュッシー大好きです(聞き専!)
叙情的に見せて緻密な計算が織り込まれている気がします なので弾きこなすのは難しいです 何を弾いてもことごとくあなたに向いていないと先生に言われるしね・・・

雨の庭・・・なぜかドリフのコントの雨漏りをれんそうしてしまいます(貧相でゴメンナサイ)
でも雨音の変化をコレだけピアノで表すことができるなんて狂気すら感じます

投稿: オリオリ | 2005/07/05 17:23

オリオリさん、こんにちは。
ドビュッシーファンって結構、いるんですね。ピアノが弾ける方なら挑戦したくなる曲なのか。オイラも、もう少し頑張っておけばよかったと…今更、後悔しても遅いね。とにかく挑戦できるだけでも羨ましい。
hironon さんの弾くドビュッシーって、どんななんだろう。
ドビュッシーの曲は、タイトルを伏せておいたら、聞く人によって勝手放題の連想をしそう。
雨の音、月光、水面(水鏡)、木の葉、空、そういったものを表現できたらいいな。文章で挑戦してみるか。

投稿: やいっち | 2005/07/06 07:30

何故かこの記事に今日、アクセス急増! 何かあったのかな?


[以下 07/09/21am追記]
調べてみたら、NHKラジオ深夜便にて下記の放送があった(小生は(2)だけ、部分的に聴くことができた)
9月20日:
〔こころの時代〕音楽と文学を結ぶ水脈を求めて(1)ピアニスト・文筆家 青柳いづみこ
9月21日:
同上(2)

「パーソナリティは元NHKアナウンサー鈴木健次氏(紅白歌合戦の司会者とは別の方です)で、メルド日記でもご紹介したように、池上俊一氏の論考を読んで青柳に興味をもたれ、おいたちからピアノ修業、論文修業、ドビュッシー評伝を中心とした著作やCDについて質問を投げかけてくださっています。」だとか:
http://ondine-i.net/

なるほど、だから「青柳いづみこ」でネット検索し、小生のサイトが浮上したわけだ。

せっかくなので、下記の記事を9月21日に作成:
「青柳いづみこ…双子座ピアニストは二重人格?」
http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2007/09/post_a051.html

投稿: やいっち | 2007/09/20 09:35

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