飯饐る…校舎
いつものように、【7月の季題(季語)一例】を眺めていたら、今日は何故か、「飯饐る」に目が行った。7月の季語は数多い。その中で、何故、この言葉に焦点が合ってしまったのか。
まさか、表記の読みに自信がなかったから…? さもありなん。当てずっぽうに近い読み方だが、多分、こう読むだろうという感触はあった。
でも、とりあえず、ネットで調べてみる。
すると、この季語についての検索結果が異常に少ない。十数件なのである。これまでで最低。
実際、見渡したところ、この季語(言葉)についての説明が見当たらない。
とにかく、「飯饐る(めしすえる)」であることは確認できたが。
さすがに、「現代俳壇の祖・高浜虚子の孫であり、俳誌「ホトトギス」の現主宰である」稲畑 汀子氏がこの季語に言及されていたが、「消極的にただ気息奄々と耐えるだけでなく、知恵を働かせて暑に耐える工夫をしてきたのです。「納涼」「端居」「打水」「風鈴」などの季題は、そのことをよく物語っています。これらは日本人の精神性と深く結びついた文化にまでなっています。食べ物にしても「冷奴」「あらひ」「水貝」などは、生活の知恵から、芸術の域にまで高められているのではないでしょうか。しかし一方では、「飯饐る」といったようなことにも、日本人は詩情を感じて季題としているのです」という一文の末尾で、「一方では、「飯饐る」といったようなことにも、日本人は詩情を感じて季題としているのです」とあるだけ。
言葉そのものへの説明はない。ま、歳時記その他で調べれば済むわけなのだろう。
それでも、ネット上で幾つか、「飯饐る」という季語を織り込んだ句を見つけることはできた。
たとえば、「線路越えつつ飯饐る匂ひせり 加倉井秋を」、「濁流や水屋の闇に飯饐る 牧 辰 夫(1932~) 」、「飯饐る何時も一人でする食事 石川 かほる」などである。
(「加倉井秋を」については、「日誌>加倉井秋を忌 (6.2) きのふはけふのものがたり-ウェブリブログ」を覗くと、彼の作品のうちの幾つかを詠むことができる。年譜などは「加倉井秋を」参照。)
見つかったのは、これですべて。
「饐(す)える」というのは、「飲食物が腐ってすっぱくなる」である。
たまたまだが、「饐(す)える」で引くと、「デポログ - DEPOLOG 我も饐えかねぬ」にて、「飯饐えるザル持つ父に不孝詫び」なる句を見つけることができた。
このブログサイトには、「今日び、飯が饐(す)えたとはどんな状態か、ピンと来ない方が多いかも知れない。平たく言えば、腐りかけの飯である。暖かいもしくは暑い季節の遠足に、弁当として持たされた握り飯がいざ食べようとしてみたら、少し粘り気が出て変なにおいがする状態、と言えば少しは分かる方も増えようか」などと説明があって、同感だし、説明に納得もする。
以下、さらに丁寧な記述が続く。魚肉などの扱いの説明の後、「そんな時分、饐えた飯はやはり食べられた。腐ったわけではない、飽くまで腐りかけなのだから。しかし勿論、そのままでは食べるに堪えないので、手を加えた」とある(改行は小生が変えました)。
この辺りとなると、小生には全く、記憶にない。興味津々である。
「と言っても水で洗うだけである。ザルに飯を放り込み水でザブザブと洗う。においと粘り気が取れるようであれば、それは十分食べられる。そうして食べるそれを水飯と呼ぶ地方もあるらしい」と続くから驚きである。
驚く小生は、育った頃、食べ盛りの頃は既に飯にそれほど窮してはいなかったということか。
そうはいっても、台所でテーブルを囲むようにして食事して、米粒が一粒でも床に(テーブルの上に、ではなく)落ちたなら、拾って食べた。食べないといけないと教え込まれていた。床に落ちた米など、反って不衛生で体に悪いのでは、などと思うのは、後の話であって、その頃は農家としては、この教えのほうこそが大事だったのだろう。
他にも、「俳人の端くれとなり飯饐える 中尾半夫」や「身の饐えるまで木犀の香に遊ぶ・・・・・・・・鷹羽狩行」、「工場の裏に小鼠飯饐える 種茄子」を見つけた。
[ 「身の饐えるまで木犀の香に遊ぶ・・・・・・・・鷹羽狩行」を「Doblog - K-SOHYA POEM BLOG -」にて発見。 (05/07/27 追記)]
一体、「飯饐る」と「飯饐える」のどちらが正しいのだろう。辞書的には、「饐える」のようだけど。
小生などは、饐えた臭いというと、古びた木造の校舎を思い出す。保育所は木造だったことは間違いないが、壁や床の臭い等、覚えていない。ペンキの塗りたての匂いの印象があるけれど、立て直された保育所と誤認しているかも。
小学校も、中学校も、高校も木造の校舎だった。しかも、そのどれも、小生が卒業した翌年に建て替えとなって新築に、無論、時代の趨勢なのか、あっさり、鉄筋のコンクリート製となり、自分が学校に戻っても、思い出に浸りようがなくなってしまった。
大学は、教養部は、新築なって日の浅いコンクリートの高層(当時としては)だったが、学部(三年生乃至、専門課程)のための校舎はそれこそ、古びていて、饐えた匂いがプンプン立ち昇っていて、廊下などを歩くだけでも、頭が痛くなるほどだった。
でも、廊下も壁も柱も、その木々は磨き込まれていて、ともすると黒光りと錯覚しかねないほどで、数知れない先輩達が歩いていった、壁に触れた、思いを重ねた校舎なのだと感じて、その饐えた臭いに人間味と歴史とをじっくりと感じ味わえたのだった。
饐えたとて重なる思い擦れもせず
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コメント
「饐える」ちゃんと変換して出てきますね~!
久々に聞いた言葉です。子供の頃の記憶では、洗えば大丈夫といって食べてました。あまり沢山のご飯を食べる家庭ではなかったので、冷やご飯が饐えてしまう事が。お腹を壊した事は無かったですが、不味かったので焼き飯にしたり(腐ってしまっちゃ食べられませんが)今なら。。捨てるでしょうね。勿体無い(^_^;)
今度は台風ですね。お気をつけて。
投稿: ちゃり | 2005/07/26 09:41
饐える こういう字だったんですねぇ。
夏は、昔は冷蔵庫なんて便利な物がなかったから、ご飯を笊に入れて吊るしたりしたと母が言っていました。
私の子供の頃は吊っているのは見たことがなかったけれど、そう言えば、おひつの中のご飯が饐えたとか、まだ大丈夫とか、言っていたような記憶があります。
饐える 久しぶりに聞いた言葉です
最近は 痛んだとか、腐るなどと(ズバリですね)言いますね。
そうだ!!冷蔵庫の中の豆腐!忘れていた
もう、饐えたかもしれません トホホ。
季節外れの台風、これもそのうち珍しくなくなるかもしれませんね
何にしても、ご用心を。
投稿: 蓮華草 | 2005/07/26 19:22
ちゃりさん、こんにちは。
饐える…。仮名漢字変換機能の便利さを痛感します。手書きでは、見ながらでも書けない?!
今、調べてみたら、「「噎」(むせぶ)」という漢字は、「饐・咽」の同義語。「壹(イツ)(=壱)は「くびれた壺(ツボ)に物を詰めたさま+音符吉(=詰。つめる)」の会意兼形声文字」とか:
http://ww81.tiki.ne.jp/~nothing/kanji/q/q_008.html
余談だけど、オヤジ臭(加齢臭)の臭いは、饐えた臭いだ、なんてテレビか何かの番組で聞いたけど、なんだか情なくなる…。
不潔臭なら入浴すれば消えるという望みがあるけど、オヤジ臭となると、どうしようもないね。
投稿: やいっち | 2005/07/27 08:09
蓮華草さん、こんにちは。
最初から余談で申し訳ないのですが、田舎に帰るたび、心配になることが。年老いた父母が二人で暮らしているけど、お袋は体の自由が利かず、父が家事その他を。
で、田舎に帰ると、冷蔵庫や台所の方々に日付の古い食品があちこちに。生ものも。老いた父が料理などするけど、大丈夫かと…。
姉や姪っ子たちが折々来てくれるから大丈夫だとは思うけど。
もう、賞味期限の日付も大事だけど、(饐えた)臭いで確かめる方が安心かな。
豆腐、忘れてた…でも、豆腐って、漢字表記からして最初から腐ってる、ってことはないか。
小生の冷蔵庫に今年の初め頃買った豆腐が安置されてます。捨てるのも勿体無いので、胃の腑で処理するしかないかと迷ってます。
数年前まで、田舎からバイクで帰京する際、お釜の御飯でおにぎりを作ってくれた。真夏だと、炎天下を走って、おにぎりが大丈夫かなと心配したけど、海苔で巻いておくと(梅干しも入っていたな)問題なく食べられて感激したものだった。
あれこれが思い出に変わっていく。
今を大事にしないといけないね。
お二人とも台風の心配をしていただき、ありがとうございます。
台風、東京に関しては風雨はあったけど、直撃は避けられました。テレビ局など、報道関係の方たちは局に多数、泊り込みしたとか。台風の被害の報道をするはずだったけど、肩透かし。ま、無事が何よりだね。
投稿: やいっち | 2005/07/27 08:20
弥一さん お豆腐は真空パックですか?
普通のお豆腐でしたら、食べたらダメです
蛋白質ですからあたると、怖いです(>_<)
高野豆腐って事はないですよね。冷蔵庫の中だから。
おにぎりと梅干、これは先人の知恵の塊ですね。
梅干の殺菌作用は、すごいものがあるらしいです。
私は夏場炊飯器に塩漬け梅干を一個入れて
ご飯を炊いています。
炊き上がったら梅干は、そのままご飯に混ぜ込んで、食べてしまいます。
投稿: 蓮華草 | 2005/07/27 13:32
蓮華草さん、ありがとう。話題に出て冷蔵庫の豆腐のことを思い出しました。真空パックです。どうやら昨年の夏に買ったみたい。賞味期限は今年の五月で切れていました。中を開いてないので大丈夫かどうか分からないけど、多分、大丈夫だったと、後日、報告できるでしょう。
「私は夏場炊飯器に塩漬け梅干を一個入れて
ご飯を炊いています」
この知恵、いただきます。早速、今夜からやってみます。
田舎に行ったら、今まではお袋が作っていた梅干し、父が作っていました。なので、当面、梅干しが切れる心配もないし。
「梅干」は夏の季語だとか。「梅干す」が正式な季語なのかな。
梅干しや美味しい顔も梅干しだ
梅干しや見ているだけで酸っぱくて
梅干しを肴にしての夜深し
投稿: やいっち | 2005/07/27 15:28