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2005/07/27

雲の峰(入道雲)…スペースシャトル

「雲の峰(入道雲)」は、夏7月の季語である。
三重歳時記 1979年」の「入道雲」によると、「雲の峰とは入道雲のことをさす。学術的には積乱雲であり、夏から秋にかけ、烈しい上昇気流の生じたときに出現する」という。
 夏というと、入道雲だし、雲の峰というと、芭蕉の「雲の峯幾つ崩て月の山」を思い浮かべる人も多いだろう。
水曜通信 牛乳は手を腰にあて雲の峰」を覗かせてもらうと、「雲の峰」を織り込んだ句が幾つも紹介されている(このサイトには、積乱雲の画像サイトも紹介されていた→「雲百科 積乱雲」)。
 その他、雲の峰の句というと、「航海やよるひるとなき雲の峰    高浜虚子」や「雲の峰静臥の口に飴ほそり   石田波郷」など。
 
 入道雲というと、夏休みという連想が働いてしまう。別に子供の頃とか学生時代しか入道雲を見たことがないわけではないが、育つに連れ、というか人間性が擦れていくに連れ、夏の空を遠く眺めるようなゆとりがなくなっていく。
 日々の生活に追われる。現実の七面倒臭いことに関心が奪われていく。
 かといって、子供の頃の自分がゆとりたっぷりだったわけではない。そのように回想されるなら、子供の頃の心や記憶が薄れてしまって、ある意味、熱湯の中にいた日々の熱さから遠ざかってしまったから、ただ懐かしさとセピアの薄膜に覆われてしまったからではないかと思ったりする。
 学校の宿題ができなくて、どうやって学校へ行こうかとか、試験の成績が悪くて、返却された赤点の答案用紙を
手に、途方に暮れていたとか、虐め(虐める側か虐められる側かは、それぞれだとして)の渦中にあるとか、とにもかくにも思い惑うことは多かったし、惑う心の振幅も極端だったりする。
 だからこそ、不意に遠くの青い空に何処までもモクモクと立ち昇る入道雲に、目の現れるような、救われるような、いや、ただただ単純素朴に感動してしまったのかもしれない。

 遠い空ただ眩しきは雲の峰

 が、さて、今日は、以下、例によって野暮な話に渡っていく。入道雲ならぬ宇宙ロケットの燃料の雲。

 スペースシャトル「ディスカバリー」打ち上げ成功。まずは一安心である。

「スペースシャトル「ディスカバリー」打ち上げ成功(ロイター)」によると:

「[ケープカナベラル(米フロリダ州) 26日 ロイター] 米航空宇宙局(NASA)は米東部時間26日午前、フロリダ州ケープカナベラルから、野口聡一さんら7人の宇宙飛行士が乗るスペースシャトル「ディスカバリー」を打ち上げた。
 2003年の「コロンビア」の事故以来、2年半ぶりの打ち上げとなった。
 ディスカバリーは12日間にわたる飛行で、コロンビア機事故後に導入された新たな安全対策や断熱材補修技術の検証と、国際宇宙ステーション(ISS)へ物資の輸送を行い、来月7日に帰還する。
 打ち上げは当初13日に予定されていたが、シャトルの燃料センサー系の異常により延期されていた。
 NASAは、2003年2月1日に発生したコロンビアの墜落事故後、10億ドル以上をかけ、事故再発防止対策を進めてきた。また、捜査当局から批判されたリスクを見逃しがちなNASAの体質改善にも努めてきた。
           [ロイター:2005年07月27日09時05分] 」

 文中にもあるように、「2003年の「コロンビア」の事故以来、2年半ぶりの打ち上げ」であり、しかも、「シャトルの燃料センサー系の異常により延期されていた」のだった。
「【ワシントン共同】ブッシュ米大統領は26日、スペースシャトル「ディスカバリー」打ち上げ後に声明を発表、「米国民を代表して任務の安全と成功を祈る」と述べた。大統領は2003年2月の悲劇的なシャトル事故に触れた上で「宇宙開発を再び軌道に乗せることに献身した米航空宇宙局(NASA)職員に感謝したい」と労をねぎらった」と、米大統領も祈るような気持ちでこの打ち上げの様子を見守っていたし、成功を期待していたようだ。
「米大統領夫人は26日、フロリダ州ケープカナベラルの米航空宇宙局(NASA)ケネディ宇宙センターでスペースシャトル「ディスカバリー」の打ち上げを見学し」ていたとか。

 ところで、冒頭に示した一文の中の、「NASAは、2003年2月1日に発生したコロンビアの墜落事故後、10億ドル以上をかけ、事故再発防止対策を進めてきた。また、捜査当局から批判されたリスクを見逃しがちなNASAの体質改善にも努めてきた」という点、本当なのだろうか。
 燃料センサー系の異常など、原因が実際のところ、追求され尽くしていないのではないか。

「米航空宇宙局(NASA)ケネディ宇宙センター(フロリダ州)から野口聡一さん(40)ら7人を乗せて打ち上げられたスペースシャトル「ディスカバリー」は、順調に飛行を続け、野口さんはシャトルから分離された外部燃料タンクをビデオ撮影するなど、初の宇宙で本格的な活動を開始した」(共同通信)というが、今のところ、順調だとはいえ、今のNASAの体質は、JR西日本的な気味がないとは言えないような気がして、怖かったりする。
 人気や支持率の上で低落傾向にあるブッシュ現米大統領の人気回復のためにも、早期の打ち上げは必至だったとも言われている。
 心配を裏書するかのように、「米航空宇宙局(NASA)ケネディ宇宙センター(フロリダ州)から野口聡一さん(40)ら7人を乗せて打ち上げられたスペースシャトル「ディスカバリー」は、打ち上げ直後にディスカバリーの機体の耐熱タイルの一部が損傷し、脱落したことを示すデータを、打ち上げを監視していた地上のレーダーがとらえていたことが分かった。分析を急ぐ。」(共同通信)などといった情報が打ち上げ成功の後を追うように伝わってきたりする。
「スペースシャトルの打ち上げが成功したことで、飛行士の野口聡一さんが船内に持ち込んだ初めての宇宙食ラーメン「スペース・ラム」を開発した日清食品の安藤百福・創業者会長(95)らは27日、大阪府池田市のインスタントラーメン発明記念館で会見した」というが、手放しで喜んでばかりも居られないのではないか。

「ディスカバリーの機体の耐熱タイルの一部が損傷し、脱落したこと」については、さらに情報が入っている。
「CNN.co.jp タンクや機体から破片? シャトル打ち上げ時」によると、「シャトルは順調に予定された地球周回軌道に乗った。一方でNASAは打ち上げ時の映像が、外部燃料タンクや船首付近から破片のようなものがはがれていく様子をとらえていた点について、調査を開始した」という。
 その剥落する破片の様子を示す画像がCNN.のサイトに載っている。
 こうした画像が得られたのも、「2003年2月の「コロンビア」空中分解事故では、打ち上げ時に外部燃料タンクを覆う断熱材の一部が脱落し、上昇中の機体の左翼前縁部に激突したことが、帰還時の空中分解の原因となった。 以来NASAは、打ち上げ時の破片はく落の量を極力減らすため設計改造などを重ねたが、破片はく落を完全になくすのは不可能だという。このため今回の打ち上げでは、分析材料とするため、地上と空中や機体そのものに設置されたカメラ107台が、打ち上げ時の機体の様子をつぶさに記録していた」が故のようだ。

 先週は、リチャード・P. ファインマン(Richard P. Feynman)著『ファインマンさんベストエッセイ』(大貫 昌子/江沢 洋訳、岩波書店)を読んでいた。
「稀代の物理学者がまたもや語る! 本邦初公開の作品を中心に,数あるエッセイの中でも選りすぐりの名作だけを集めました.縦横無尽,痛快無比のファインマン節は,いつものとおり切れ味バツグン.まさに本領発揮の1冊です.「ファイマンさん」ファンはもちろんファイマンの本をはじめて読む人ならば,より一層楽しめます」とレビューにあって、『ご冗談でしょう、ファインマンさん―ノーベル賞物理学者の自伝』(大貫 昌子訳、岩波現代文庫)ほどではないが、さすがファインマンさんという面目躍如の本だった。

 実は、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』にも書かれているようだが、ファインマンさんは、スペースシャトルとも無縁の方ではないことを本書『ファインマンさんベストエッセイ』を読んで小生は初めて認識した。
 但し、開発に携わったとか、ではなく、本書には、目次にも示されているが、「リチャード・P・ファインマンによるスペースシャトル「チャレンジャー号」事故少数派調査報告」なる一文が載っているのである。
 その一文を読んだのが、いよいよ打ち上げが数日に迫っている先週末だったのである。
 しかも、原因追求が完璧になされないままに、(マスコミで日本人宇宙飛行士と持て囃される)野口聡一さんが乗っているというのに、よほど、米航空宇宙局(NASA)の責任者らは(米大統領から)プレッシャーを受けていて、焦っているのだろうか、こんな時、ファインマンさんだったら、どんな批判を展開するか、などと思いながら本書を読んでいた。

 スペースシャトル「チャレンジャー号」の勇姿や事故の画像は「スペースシャトル:チャレンジャー号」で見ることができる。「86年1月28日、打上げ直後の爆発事故によってチャレンジャー号は失われ」たのだった。
「打上げから73秒後に固体ロケットブースターの異常のため爆発し、搭乗員7名の命が失われました。この事故をきっかけとして、NASAのシャトル計画はあらゆる面で見直されることにな」ったのだという。
 この見直しにファインマンさんの頑張りが預かって余りあるとは贔屓の引き倒しになるだろうか。
 しかし、「彼の生涯の終わりに近い頃,スペースシャトル「チャレンジャー号」爆発事故を調査するロジャース委員会の委員に任命されたのですが,真の原因を見事に解き明かす実験をテレビで行い,責任逃れのためか,原因究明に及び腰だった政府官庁を震え上がらせ,アメリカ国民の拍手喝采を浴び」たのであり(、しかも、その頃、ファインマンさんは単に生涯の終わりに近かっただけではなく、病気(ガン)で死期が迫っていることを自覚している中での無責任男(自称。要はやりたいことをやる、そのために余計な役職には付かない、という意味)の本領発揮だったのである(引用は、ラルフ・レイトン著『ファインマンさん最後の冒険』(大貫 昌子訳、岩波書店)から)。
「真の原因を見事に解き明かす実験をテレビで行い,責任逃れのためか,原因究明に及び腰だった政府官庁を震え上がらせ,アメリカ国民の拍手喝采を浴び」た様子は、「『ご冗談でしょう,ファインマンさん』 『困ります,ファインマンさん』(いずれも現代文庫)に詳しく描かれてい」るようだ。

「リチャード・P・ファインマンによるスペースシャトル「チャレンジャー号」事故少数派調査報告」は、本当なら事故原因究明のためのロジャース委員会の調査最終報告書には載らないはずだったが、ファインマンさんは自らの意思で「真の原因を見事に解き明かす実験をテレビで行」ったのだった。

 ネット検索していたら、2003年のスペースシャトル コロンビア号事故に関する宇宙作家クラブの会員からの声明を集めたサイトが見つかった:
SACニュースページ スペースシャトル コロンビア号事故に関して
 表題に続いては、「2003年2月1日、スペースシャトル「コロンビア」STS-107は、帰還途中、テキサス州上空63km、マッハ18で、空力破壊を起こして四散しました。今回の事故に関する、宇宙作家クラブの会員からの声明を、以下に集めて掲載いたします」とある(改行は、国見)。
 その中で、福江 純氏(科学者)の一文から一部を抜粋すると、「1986年のチャレンジャー事故のときは原因究明委員会でリチャード・ファインマンが、ガンに冒された体で頑張った。いま、彼はもういない。彼のような総合科学者もいないかもしれない」とあるのが、目を引いた。
 そう、現在にあって、ファインマンさんに相当するような人物はいないのだろうか。

 福江 純氏の一文は、次のように続く。
「しかし、原因を究明して、問題を完全に解決し、そして再び前へ進まなければ、犠牲者にも申し訳がたたないだろう。成長し発展するのが生物種の宿命である以上、宇宙開発を進めていかない限り、人類という種に未来はないのだから」
 この「成長し発展するのが生物種の宿命である以上、宇宙開発を進めていかない限り、人類という種に未来はないのだから」というのが、大方の意見なのだろう。「生物種の宿命」かどうか、分からないが、人類という種は、好奇心か、繁殖欲か、征服欲か、それとももっと根底的な本能に類する衝動なのか分からないが、どこまでも<前進>していく、ということなのだろうか。
 だったら、余計、トラブルなどの原因究明は徹底して行われるべきなのではないか。

 今はただ、宇宙飛行士全員の無事の帰還を祈るのみである。

[ 懸念されていることが起きて欲しくない。今、改めて思う。
「米航空宇宙局(NASA)は1日、米スペースシャトル「ディスカバリー」の機体底部で見つかった耐熱タイル充てん素材の飛び出し部分2か所を、3日未明(日本時間3日午後)の船外活動で緊急点検し、補修する方針を決めた。船外活動による補修はシャトル史上初の試み」(読売新聞)との情報がマスコミなどで流れている。
「素材が飛び出したままで帰還時に大気圏に突入すると、タイルや充てん素材部分の耐熱性能が低下し、乗組員の安全を完全に保証できない可能性があり、「問題点はすべて摘んでおく必要がある」(NASAヘイル副部長)と、作業実施を決定した。いずれも想定外の作業で、これまでに行われたこともないため、宇宙服の金属製の命綱がタイルを傷つける可能性など、未知の危険を伴うことになる」(同上)とか。
「作業担当者としてはロビンソン飛行士(49)の名前が挙がっている。野口聡一飛行士(40)は写真撮影などの支援に回る見通しだ。補修作業は、はみ出た部分を小さなのこぎりで切るか、はさみ形の大型ピンセットや手でつまみ出すことが検討されている」(同上)とも。 (05/08/03 追記)]

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