黒百合…悲劇の花
さていつものように画面に向かい、今日は何を綴るかと考え出す。何も書く材料もなしに空白の画面に向かうというのは、楽しいような、プレッシャーでもあるような。
でも、プレッシャーがプレジャーなのである。
例によって【7月の季題(季語)一例】を眺めた。すると、今日は真っ先に冒頭近くにある百合に目が行った。
脳裏では、勝手に、百合…黒百合…佐々成政と越中人たる小生ならではの連想が働いている。
そう、富山県人ならば、百合というと、黒百合を思い浮かべる(人が多いのではなかろうか。今時の人は分からないが)。
本題に入る前に、「百合」について少々。
夏の季語である「百合」には仲間がたくさん、あるようで、季語として使われる言葉に限っておいても、「山百合」「姫百合」「鬼百合」「白百合」「鹿子百合」「車百合」「早百合」「黒百合」「鉄砲百合」「百合の花」と並ぶ(←「北信州の道草図鑑」より)。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」 なんて言うけれど、そのように評される女性ってどんな人なのだろう。花のように、すぐに萎れてしまう人ってことなのだろうか。
「雑学花言葉」の「雑学花言葉「く」で黒百合の花言葉を見てみると、「恋、呪い」だとか。
説明には、「花の姿と暗紫の花色から黒百合と呼ばれるが、百合ではなくバイモ属。悪臭があるそう。 ミヤマクロユリの母種とされている」とある。
下記するが、黒百合と越中との結びつき(因縁というべきか)は浅からぬものがあるのに、何故か、黒百合は石川県の県花。どうやら、「白山に多く群生」するからのようである。
早速、「黒百合 佐々成政」でネット検索。
筆頭に、「てのりカード-十年一覺-黒百合 - TenoriWiki」なるサイトが登場(URL表示は難しい)。
どうやら、泉 鏡花の小説「黒百合」を話題の俎上に載せているサイトのようである。
「最近(4月14日)に公開された、鏡花の「黒百合」の舞台は、越中富山市内と立山山麓。佐々成政は、冬のザラ峠*1を越え徳川家康に援軍を乞いに行った事で有名な戦国武将。早百合は、その遠征中に密通の疑いをかけられ「もし、立山に黒百合の花が咲いたら、佐々家は滅亡するであろう」との予言を残し、無念のうちに死んでいった。言葉通り、後に成政は、豊臣秀吉により肥後一国を与えられたが、国人の反乱に会い、その責任で切腹させられた。その時、立山には黒百合が咲いていたと言う。そんなバックグラウンドで、黒百合の花は、否が応でもそのミステリアスな雰囲気を醸(かも)し出す」とある。
この「佐々成政とクロユリ伝説」については、リンク先などに詳しい。
この伝説の中では佐々成政は「早百合を枝に懸けて惨殺した」りとか(早百合の黒髪を引っ張り、神通川の川沿いまで走り出て、髪を逆手に取り宙に引き上げ、斬殺)、北政所を迎えるに黒百合という有り触れた花を「珍花」としたなどと、かなり悪人ないしは無神経・無教養・無慈悲な人物として描かれている。
が、典拠は『絵本太閤記』だったりするので、やはり敗者は歴史においては悪人に描かれるの伝で、佐々成政とはライバルだった前田利家とは比較にならない扱いをされてくる結果となったのだろう。
信長の忠臣だった佐々成政は信長の死後もの信長への忠節の心を忘れなかった。その意味で戦国の世にあって不器用な面もあったのかもしれない。「天正十年(1582)の本能寺の変後、成政にとって苦渋の日々が続くことになります。羽柴秀吉(のちの豊臣秀吉)と対立することになったからです。」秀吉(太閤)側から悪く描かれるのは当然だったわけである。
とにかく、佐々成政という人物については逸話が多く、「佐々成政資料館」を覗くと、「佐々成政に関する逸話」として、以下が列挙されている:
早百合伝説
埋蔵金伝説
一夜泊稲荷神社伝説
織田信長に諫言
成政と学問
黒百合伝説
越中人ならずとも小説やドラマの主人公に仕立て上げたくなる人物だったと思っていいようである。このうち、「黒百合伝説」の項を読むと、淀君だけではなく、寧々や花を生けた千利休の娘・綾なども絡んで、話の奥行きは闇が濃く深と感じさせられる。
冒頭で示したサイト(てのりカード)には、「「黒百合は恋の花、愛する人に捧げれば、二人はいつかは結ばれる」という「君の名は」で使われた「黒百合の花」は、アイヌの伝説に拠る。」という一文がある。
この伝説は印象的だったりして、「黒百合の歌」(作詞:菊田一夫、作曲:古関裕而、歌:織井茂子)でも歌詞の中に伝説が織り込まれている。
「クロユリ」なるサイトを覗くと、「黒百合は 恋の花/愛する人に 捧げれば/二人はいつかは 結びつく」とか、「黒百合は 魔物だよ/花の香りが 沁み付いて/結んだ二人は 離れない」、「黒百合は 毒の花/アイヌの神の タブーだよ/やがてはあたしも 死ぬんだよ」といった歌詞を知ることができる。
同じサイト(てのりカード)に「土地の口碑(こうひ)、伝うる処に因れば、総曲輪のかの榎(えのき)は、稗史(はいし)が語る、佐々成政(さっさなりまさ)がその愛妾(あいしょう)、早百合を枝に懸けて惨殺した、三百年の老樹(おいき)の由」という一文が泉 鏡花の小説「黒百合」から引かれている。
「総曲輪」という言葉(地名)を読める人は、間違いなく富山県人(か、富山に居住したことのある人)だろうと思われる。
読み方を知りたい方は→「富山市中心商店街[まちぶら]」参照
総曲輪通りと「中央通り」は富山市の中心街であり繁華街であり続けた(のだけれど、最近は…)。
黒百合伝説は悲劇の伝説…。小生思うに、黒百合というけれど、実際は、せいぜい暗紫色で、決して黒くはない。なのに、「黒」百合と称してしまったことから悲劇が生まれてしまったのではなかろうか。「紫百合」とでも表記して、読みも「しゆり」などに変えたら、呪いに満ちた話ではなく、花の姿らしい艶麗な話も生まれたのではなかったろうか。
その代わり、泉 鏡花の小説「黒百合」は生まれなかったかも…。これは残念ということになる。困った。
それにしても、黒百合なる言葉の織り込まれた句がネットではあまり見つからない。あまり馴染みではないから仕方がないのか。富山県人にとっては(石川県の人にとっても?)残念だ。
黒百合の思いに揺れる孤影かも
[本稿には、情けないことに「黒百合」の画像がない。「黒百合:カイエ」へどうぞ! (08/05/13追記)]
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コメント
こんばんは
黒百合繋がりで、TBさせていただきますので、
よろしくお願いいたします。
黒百合が花を咲かせたので、うれしくて記事にしましたが、
もし、書く前に、こちらの記事を拝見していたら、
もっと充実した内容になっていただろうと思いました。
投稿: lapis | 2008/05/13 01:36
lapisさん
旧稿へのコメント、ありがとう!
3年前の記事なんてこんなことがないと読み返すこともないし、嬉しいものです。
いつもながら文章の内容もさることながら、素晴らしい画像と相俟って読みやすく、比べられると参っちゃいます。
小生が言及するだけで通り過ぎてしまった泉 鏡花の小説「黒百合」のこともきちんと扱っておられますね。
共々に読んでもらえたら一層、嬉しいのだけど。
ああ、黒百合の花の画像が欲しい!
投稿: やいっち | 2008/05/13 09:38
私の背中の左には黒百合の刺青が入ってます。
花にちなんだ言葉やら逸話は、入れてからかなり経ってからなんとなく、調べました。
黒百合の妖艶さに惹かれて入れましたが意味などを調べていくうちに、
とても私の背中にある黒百合が輝いてるように感じます。
投稿: 通りすがり | 2009/09/27 21:25
通りすがりさん
「私の背中の左には黒百合の刺青が入って」いるとなれば、黒百合への思い入れは、ひときわ強いものがあるのでしょう。
黒百合の妖艶さ!
http://www.hana300.com/kuroyu.html
黒百合は、石川県の県花のようですが、富山の人間も、伝説を知る人は、並の花とは違う思いで見るようです。
でも、そんな伝説は別にして、黒百合の花は独特な雰囲気を持っているようです。
だからこそ、通りすがりさんも刺青のデザインとして選ばれたのでしょうね。
投稿: やいっち | 2009/09/28 18:08
黒百合でこれだけ深く語れるのですネ!
知らないことばかりで驚きの連続でした。
俳句のことをちょっと書いて思い出したのが吉永小百合さんの俳号。
なんと「鬼百合」!
驚きましたが、考えてみると鬼百合はパワーも美もあるきれいな花ですよネ。
「鬼」なんてつけるのがそもそもおかしいデス。
おかしいといえば割と普通に見られる「ヘクソカズラ」という名前の植物がありますが、
いくら物言わぬ植物とはいえあまりと言えばあんまりです!
だいたいこの植物の名前をヘクソカズラにすると言い出した学者はただの変わり者かも知れませんが、
それが学会で認められたと言うのが不思議です。
あんまりな名前、ということでホントにそんな名前にするような臭いがするのか、
におい測定器で実測した人がいたほどです。
http://portal.nifty.com/koneta04/08/22/01/
あと植物ではありませんがクソミミズとかムラサキハゲナマコとか、
他人、いや異種とはいえ、かわいそうでなりません。
こういうネーミングをする人はヘクソカズラにでも生まれ変わって欲しいものです。
黒百合→鬼百合の話題からずいぶんかけ離れてしまいましたネ。
えーっと、こちらのページの飛び先にあった「花筏」
http://www.hana300.com/hanaik.html
「椰筏」
http://www.hana300.com/nagiik.html
不思議でおもしろいですねー。
ちなみに川端康成が最初に飼った犬の名前は「黒牡丹」
自分の神経質なところを治すために犬を飼うことにし(すごい自己分析!)
大の犬好きになったそうですが、
黒牡丹とはいかにも神経質な人がつけるような変わった名前ですよね。
川端康成が生まれたばかりの子犬7匹くらいを両腕にかかえている写真を見たことがありますが、硬い表情でカメラを見つめています。
写真嫌いだったのかもしれませんが神経質な性格は結局治ったのでしょうかネ。
投稿: ひらりんこ | 2009/11/20 22:45
ひらりんこさん
いつもながら、中味の濃いコメント、ありがとうございます。
いろんな話題(素材)をネタにあれこれ書いていますが、誤解されているような物知りさんではないんです。
知っていることを書くのではなく、知らないからこそ、興味を抱いたからこそ、ネットで本で、ラジオやテレビで知ったこと、さらにネットで情報を細くして、調べつつ、書き連ねているだけです。
ある意味、思考過程がそのまま現れているのかもしれない。
調べた結果を整理して読まれる方の分かりやすいように、という配慮に幾分(相当?)、欠けているかもしれません。
でも、これはあくまで日記のブログ、呟きや愚痴や悲しみや怒りを思いついたままに書いているプライベートなノートなのだと割り切って書いています。
さて、吉永小百合さんが「鬼百合」という俳号で俳句を嗜まれているなんて、初めて知りました。
機会を設けて、弱冠でも調べてみたいものです。
まずは、「鬼百合」という俳号を付けた動機から、かな。
ヘクソカズラ、我が家の庭にも育っているし、時期が来ると咲いています:
http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2009/07/post-1d64.html
雑草については、「雑草をめぐる雑想」で随想的なことを書きました:
http://atky.cocolog-nifty.com/bushou/2008/04/post_05b5.html
川端康成が最初に飼った犬の名前は「黒牡丹」といった話題も興味津々です。初耳でした。
ひらりんこさんこそ、話題豊富ですね。
狭い世界に生きている小生の窓が大きく開かれるようです。
改めて、コメント、ありがとう!
投稿: やいっち | 2009/11/22 13:56
中身が濃い、というか、話が飛躍してダラダラ長くなってしまい、すみません。
長崎には日本で唯一、対馬(つしま)という島にだけ自生する黄金鬼百合という百合の花があります。
普通の百合とちょっと、いや、全然違う、百合らしからぬふえ方をします。
http://marugoto.cool.ne.jp/tsushima/syokubutsu-zukan/project/ougon_oniyuri1.htm
文中に女連(うなつら)という地名が出てきますが、
長崎には「女の都」というところがあります。
女の都小学校やスーパー女の都などがあり、
【女の都団地】と行き先の書かれたバスを見た他県の人はビックリした様子でバスを凝視しています。
「どんな団地なんだ!」と思わずバスに乗り込む人もいるかもしれませんが(いないか^^)、
女の都は「めのと」と読むんですヨ。
対馬といえば、今、東京で樋口記念館では「半井桃水と樋口一葉展」が催されているようですね。
桃水は対馬の藩医の家に生まれた人です。
新聞小説家の彼は地元対馬でも忘れられた存在のようで、
一葉が五千円札の肖像として使われた時に彼女のプロフィールの中で知った、という人が多かったそうです。
私は、というと…樋口一葉に関しては教科書レベルの知識しかなかったので、
桃水の名前はこの展示会で初めて知った次第で(-_-;)。
戸主である一葉一家の生活のもとになる、仕立や洗い張りの得意先の一人が半井桃水だったそうです。
一葉は大きな風呂敷包みを抱えて、本郷から桃水の住む西新橋まで徒歩で往復したそうですが、
どのくらい時間がかかったのか、やいっちさんはわかりますか^^?
一葉は桃水への想いを素直に手紙や日記にしたためたそうですが↓(全く読めません)
http://taito-culture.jp/culture/ichiyou/japanese/ichiyou_04.html
桃水の一葉への述懐は素っ気なかったようです。
私の知識など上っ面の浅いものですが、
いろいろ知りたがりなので、何にでも食いつきます^_^;
魚ならカワハギ。(エサを選びません)
こちらの方こそ、エサの種類の多い、やいっちさんに感謝!です。
投稿: ひらりんこ | 2009/11/25 22:11
ひらりんこさん
興味深い話題をいつもありがとうございます。
忙しくて、受け止めきれないのが残念です。
「女の都」なんて、秘密の花園のような、怖いような。
竜宮城の乙姫さまのような方々が一杯ならいいけど、気が弱いと食い物にされちゃう?
樋口一葉というと、小生は、自分の入院生活を思い出してしまいます。
長い時間を持て余し、普段は読めない、手が出ない作家の本を読み倒していった一人に樋口一葉もいたのです。
http://atky.cocolog-nifty.com/manyo/2006/03/post_89c1.html
苦しい中での文筆生活。
女であるがゆえの苦労もあったとか。
本郷から西新橋への道のり。
一葉の頃の東京と今の東京とは、道が随分、違っていて、簡単には比べられないでしょうが、今の時代では結構な距離で歩く気にはなれないけれど、当時にあっては、それくらいは当たり前のことだったのでしょう。
半井桃水からは話がずれますが、NHK総合テレビの夕方のニュース(天気のコーナー)で半井小絵さんという方が予報を担当されてます。
彼女の説明を見聞きしながら、彼女は、半井桃水の遠い子孫なのかな、なんて、余計な詮索をしてしまいます。
彼の生家が対馬とは、今回、初めて認識しました。
随分、遠いところから上京したんですね。
投稿: やいっち | 2009/11/26 21:28