沖ノ鳥島
「季語随筆日記拾遺…タクシー篇」(May 21, 2005)の中で、車中、ラジオを聴いていて、いろんな雑学的知識・情報を入手するという雑談をした。が、昨日、営業していて、その金曜日の仕事中に幾度となく聴いたニュースで触れていないものがあることに気づいた。
それは、表題にある「沖ノ鳥島」の件。「石原慎太郎東京都知事が20日、日本最南端の沖ノ鳥島(東京都小笠原村)を視察した。周辺が日本の排他的経済水域(EEZ)であることを強調するため、島の管理状況や活用法を調べるのが目的。都知事の沖ノ鳥島視察は初めて」とか「都は漁礁や海洋温度差を利用した発電所を設置する方針」という「石原知事が沖ノ鳥島視察 自ら潜水、海中調査も」といったニュースとか、「視察後、石原知事は「キハダマグロなどがくる可能性がある」と漁業への期待感を示した。一方で、「中国がEEZをうろうろするのは潜水艦の行動範囲を調査するためだ。ますます日本にとっての沖ノ鳥島の意味合いは深いものになった」などと述べた」といった「石原都知事、沖ノ鳥島を視察 海洋調査の中国牽制」といったニュースが、その日、何度となく流れていた。
これは今朝のニュースのようだが、「「日本国の最南端の島」と記された看板が6月、沖ノ鳥島に設置されることになった」とかで、「沖ノ鳥島にチタン製の看板 国交省が「領土」アピールへ」という記事も配信されている。
「排他的経済水域(EEZ)にからんで島か岩かで中国と対立する中、日本の領土であることを訴えようと国土交通省が約200万円かけて看板を作った」という。チタン製なのは、「潮風にもさびない」ため。「。「東京都小笠原村沖ノ鳥島1番地」という住所も記した」とも記事にはある。
「沖ノ鳥島は浸食で消失が心配されている」というが、「領土問題への関心の高まりからか、研究者や政治家ら島への上陸者は最近増えつつあると」言われる中、島にあまり頻繁に上陸したら、磨り減ってしまうのではないか、地球温暖化が進み海面が上昇したら、真っ先に島が水没するのではと心配になる。
さて、テレビや新聞の報道などで、折々は島の姿を垣間見ているが、「沖ノ鳥島写真館」で、改めて島影を見てみたい。と思ったが、残念ながら、島の影、中国側に言わせると岩の姿は、見えないようである。護岸する頑丈そうで立派そうなコンクリート製の構造物ばかりが目に入る。
沖ノ鳥島は島なのか岩なのか。
まずは、一般的な辞典ということで、「大辞林 国語辞典 - infoseek マルチ辞書」で「島」を引いてみる。幾つか説明項目はあったが、今、関係するのは、「四方を水で囲まれた比較的狭い陸地。海を隔てている本土より狭い陸地、また河や湖の中にある狭い陸地」という説明だろう。
沖ノ鳥島が島なのか岩なのかで揉めるのは、海外(今のところ中国)との関係の中でのことだろう。日本は、「海洋法に関する国際連合条約(United Nations Convention on the Law of the Sea)」(つまりは、1982年12月に採択され、1994年11月に発効の「国連海洋法条約」)に準拠して沖ノ鳥島を島だと主張している。
[財団法人 日本海事広報協会 [海洋環境 国連海洋法条約]」参照]
「国連海洋法条約目次」で「島」の定義を見てみる。「第8部 島の制度 」があり、「第121条 島の制度」という条文がある。
その第一項こそが問題で、「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、満潮時においても水面上にあるものをいう」とある。日本は、また、石原都知事も、この項に拠って沖ノ鳥島が島だと主張しているわけである。
「大辞林 国語辞典 - infoseek マルチ辞書」でも、「国連海洋法条約」でも、島は、四方を水で囲まれた陸地、しかも、自然に形成された陸地だと条件付けている。
この陸地を日本は島だと言い張り、中国側は岩だと見なしているわけである。
岩であれ、島であれ、自然に形成された陸地であろう点は、日本も中国側も否定してない。
となると、どうやら陸地とは一体、どういうものかが問題、あるいは問題を解く鍵となりそうだ。少なくとも人が住めるかどうかは、直接は関係ないようだ。切り立った断崖絶壁の、それこそ人跡未踏か、容易に人の上陸を許さなかった(許さない)島は数知れずある。住もうと思えば住めるが住民が皆無となった島もある。
「第8部 島の制度 」の「第121条」第二項は、「3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される」とあるので、この際は、飛ばすとして、問題は絞られて、第三項の「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない」こそが問題の焦点であるらしいと分かる。
つまり、この第三項により、陸地が土であるとか岩の状態である云々が問題なのではなく、「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩」であるか否かが焦点なのである。
なるほど、石原都知事が、沖ノ鳥島で資源開発や漁業、発電事業などの経済活動を展開できることを示すため懸命になるのは、当然なのだと分かる。
決して、中国人を三国人と呼称したりする石原都知事の中国への嫌がらせなどではないわけである。
[「秋津嶋案内所」の「石原都知事「三国人」発言の全文」など参照。]
素人の疑問に過ぎないが、仮に発電事業や資源開発などの経済活動が展開できたとして、それを「人間の居住又は独自の経済的生活」の維持と見なせるのだろうか。それだと、海のど真ん中に、それも海の底に油田を発見し、巨大な油井を作ったなら、それはすべて経済的生活となってしまわないか。実際、油井では何人もの人がその施設内で生活しているのだし。
勿論、「自然に形成された陸地」という定義に戻る訳だし、油井がそうではないことは勿論だが、しかし、「陸地」の定義が微妙で問題でありつづけることは間違いないような気がするのである。
昭和62年の頃だったか、まさに水没の危機にあった沖ノ鳥島の護岸工事が始まった。ニュースでその岩場(もう、堂々と岩場と呼ぼう。だって、経済的活動を行っているのだから。経済的生活を維持しているかどうかはわからないが…)を何故に懸命に守るのか、最初、事情の分からない小生は、建設省の方たちの苦労を滑稽なものと感じていた。
けれど、この工事で広大な排他的経済水域(EEZ)を確保しえるのだと分かり、なるほどと思った…が、その太平洋の真っ只中にあって波に洗われる小さな岩場の光景をすぐに脳裏から拭い去った。そこまでしなければならないのか…、というのが、凡人たる小生の感懐だったようだ。
理屈は分かるが、気の小さい小生は気恥ずかしくなってしまったのである。いかに、小生の理解が浅いか、わかるというものである。
沖ノ鳥島。鳥さんたちにとっては、広い太平洋にあって、絶好の休憩地であり島場なのだろうか(「望夢楼」↓参照)。日本本土の遥か沖合い、日本の一番南に位置する島。
さて、最後に、沖ノ鳥島の歴史に軽く触れておきたい。竹島問題でも領有権と絡み、竹島と日本とにどんな関係の歴史があるかが問題となったのだし。
「望夢楼」の「幻想諸島航海記/[特別篇]沖ノ鳥島の謎――歴史篇 (2)」によると、「日本においては、明治維新以前にこの珊瑚礁の存在が知られていた形跡は全くない」という。
第一次大戦後になって、ようやく、「1922年、海軍水路部(現在の海上保安庁海洋情報部の前身)の測量艦「満洲」はこの南洋群島の測量を行ったが、その途中、5月にこの珊瑚礁に立ち寄って簡単な調査を行っている。これが、日本とこの珊瑚礁との関係の始まりとされている」とか。
この頁の中に、「灯台工事のため、この島に足かけ三年間にわたって通った北河政明は、「鳥類は足溜りなき故定住のものはなく真実鳥も通はぬ沖ノ鳥島である」と書いている」という一文がある。鳥も通わぬ鳥島なのだというのだ。
<島>を領土とすべきかでも、国内において問題視されていたようだが、軍事上の都合もあり領土と決めてしまったようだ。
この頁によれば、沖ノ鳥島の護岸工事は、戦前(昭和14年)から始まっていたようだ。それが戦争で中断したに過ぎず、戦後もしばらくして工事が再開したに過ぎないのだと知ることができる。
まあ、資源も大事だし、みすみす中国に利権を浚われるのも癪、軍事的脅威に曝されるのも困りものとなれば、やはりイケイケドンドンで国や都に頑張ってもらうしかないのだろう、か。
その前に、地球温暖化で今世紀の後半にも水没の可能性を危惧している太平洋の島々の方々のことを思うと(沖ノ鳥島は、そんな危機が来たら、逸早くもっと頑丈で立派な護岸工事を施されるだろうから、安泰だと思うが)、エネルギーを浪費するアメリカはもとより、中国やインドなどの過熱・加速する経済発展のほうが脅威に感じられる。
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コメント
ツバルテレビでやってました。
島が沈む、暮らしはどうなる。
電車が突っ込んだマンションのくらしもどうなるかねえ。
騒音おばさんはどうなるかねえ。
投稿: ららら | 2005/05/25 21:52
心配事は尽きない。せめて他人に余計な心配を掛けないよう、気をつけないとね。
投稿: 弥一 | 2005/05/26 17:41
「日本の大陸棚を大幅拡張、国連申請を決定へ(読売新聞) - Yahoo!ニュース」(081031)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081031-00000002-yom-pol
政府は31日、総合海洋政策本部(本部長・麻生首相)を開いて、日本の国土面積(約38万平方キロ・メートル)を大きく上回る近海海底を新たに日本の大陸棚として認めるよう近く国連に申請することを決定する。
申請対象には、日本の最東端の南鳥島の東方、最南端の沖ノ鳥島の南方にそれぞれ広がる海底が含まれている。
日本近海の海底には、銅やレアメタル(希少金属)など豊富な鉱物資源を含む海底熱水鉱床や、石油の代替エネルギーとして注目されるメタンハイドレートの存在が確認されている。新たな大陸棚が認められれば、資源開発できる海底が一気に増大することになる。
今回の申請は、日本が1996年に批准した国連海洋法条約に基づくものだ。同条約は、沿岸国に対して大陸棚とその地下を開発する権利を認め、沿岸から200カイリ(約370キロ・メートル)の海底を沿岸国の大陸棚としている。さらに、沿岸国が200カイリよりも先に大陸棚が地続きであることを科学的に示し、国連の大陸棚限界委員会が認めれば、延伸できるとも定めている。
=== === === (転記終り)=== === === ===
このニュースって、結構、インパクトが大きいと思うんだけど、テレビでは(あまり)報じられない。
想像以上に意義は大きいと思う。
投稿: やいっち | 2008/11/01 15:45