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2005/05/15

樹液のこと…琥珀

 あるがこの季語随筆日記無精庵徒然草「風薫る…西鶴…近松」の中の「その樹液がいよいよ深くなる緑の葉っぱから溢れ出す今頃は、ついには樹液が飛散さえしてしまうようである」という部分を引用してくれていた。
 せっかくなので、他にも関心を持たれる方がいるかもしれないし、小生自身の好奇心も蠢いているので、樹液について若干の補足をしておこう…ということで、当該の頁の末尾に補足として書いた。
 が、加筆にしては量が多すぎるので、番外編として頁を独立させることにした。


[ネット散策していたら、樹脂という言葉の織り込まれた句を見つけた(May 22, 2005)。せっかくなので載せておく。句の作者は木下夕爾である。「ふくやま文学館公式ホームページ」(広島県福山市)によると、「木下夕爾は、名古屋薬学専門学校卒業後福山に帰って薬局を継いだ後、福山を離れず、五十歳の没年まで詩筆を絶たなかった、まさしく、文字通りの郷土詩人です」とのこと:

  わがつけし傷に樹脂噴く五月かな    ]

 樹液とは
樹液流 鈴木雅一(東京大学大学院農学生命科学研究科)」なるサイトを覗いてみる。冒頭に、樹液流とは、「樹木が水を根から吸って葉から蒸散するときに生ずる、樹幹を上昇する水の流れを樹液流という。一般に広葉樹では道管、針葉樹では仮道管と呼ばれる細胞を通って樹液が流れる」とある。「樹木がどれだけの水を消費しているか、土壌の乾燥にたいしてどのような反応を示すかを調べるとき、樹液流の流量や流速がわかれば大変好都合である。樹木が健全な状態にあるかどうか、人が病気のときに脈を取るように、樹液流の状態から判断することも期待されるし、樹液流動の季節変化からフェノロジー(生物季節)が論じられる可能性もある」として、以下、樹液流の流れ方や測り方などが縷々、叙述されている。

 樹液の流れる音?
豊平公園緑のセンターからのお知らせ」の「12月園芸作業」を覗かせてもらう。
 その最後の項「木のはなし 3  樹液の音は聞こえるのか?」が興味深い。
 小生は、以前、「石橋睦美「朝の森」に寄せて」や「誰もいない森の音」なるエッセイを書いたことがあるが、その時にこのサイトを知っていたら、きっと参照していたに違いない一文である。
 この項では、樹液流とはを示した上で、「樹液の流れの速さは蒸散速度と深い関係にあり、日の出とともに急激に速度を速め、短時間で1日の最大値に達します。その後、気温や日射量が大きくなっても樹液流の速さはあまり変わらずほぼ一定の流れとなり、夕方からはゆっくりと低下するという日変化があり、雨の日や空中湿度の高いときは蒸散量が少ないため、ほとんど樹液が流れないこともあります」と、小生の今の話題に関わる説明を見出すことができる。
 以下、「樹液の音は聞こえるのか?」というこの項の本題に入っていく。蒸散し飛散する樹液という話からは離れるが、興味深いので、「春先になると自然観察会などで大木の幹に聴診器や耳を当てて、 樹液の流れる音が聞こえますなどといわれ」る点についての、サイト主の方の説明を拝聴しておきたい。
 実際、ネット検索すると、特に春先など、「樹液の流れる音が聞こえ」ると記述しているサイトが目立つようになるのだ。
 結論部分だけ引用すると、「ちょうどストロ-で水を吸い上げるとき、ストロ-が水で満たされているときには全く音がでないのと同じです。水の流れるような音は、樹液の流れる音ではなく、風や幹のゆれる音が幹を伝わって聞こえるのです」という。
 小生、納得だった。

 先述したように、「白樺や楓の樹液を飲むという文化」は、ここでは、改めて詳細を調べることはしないが、世界に広く見られるようである。

 樹液の成分
 葉っぱなどから蒸散するのは主に水分であり、その中に有り余る樹液の一部が溶け込んでいるのだろうが、さて、では、樹液の成分とは一体、何だろう。
 樹液といったら、まず思い浮かぶのは、白樺や楓の樹液よりも漆なのではなかろうか。やや特殊な例かもしれないが、「Meiji Univ. Cultural Properties Lab.」の中の、「漆樹液の成分組成分析について」なる項を覗かせてもらう。
「樹液の採取は6月から10月中旬まで行なわれ、1本の木から約150~200g程度得られます。この樹液には脂質としてウルシオールが55-70%、ゴム質が5~10%、含窒素物が1.4~2.8%、ラッカーゼ酵素が0.1%位、水が20~25%含まれていて(表1)、油中水球型のエマルションを形成してい」るとのこと。以下、漆の樹液の採取の模様を写した写真や、さらに表も使って詳しく記載されている。
 
 我々の関心に事寄せて引用すると、「漆樹液の木屑等を濾し分けて「生漆(きうるし)」が得られます。この生漆は水分が多いので、ゆっくりかき混ぜる「なやし」、「くろめ」操作により、水が蒸発し粘度が上がり、乳白色の生漆が透明性のある黒色の「クロメ漆」と呼ばれる漆液にな」るという点が注目されるかもしれない。
 樹液の成分として、小生など素人考えで水分が25%以下というのは、意外な結果だった。なるほど、水分というのは、樹木にとって大切な、浪費などもっての他の成分、必要不可欠な体液構成物質ということなのか。但し、漆の木だけの結果なのかどうかなどは、小生には分からないままであるが。
 さて、樹液の成分の大半は、脂質成分のウルシオールで、これが55%から70%を占めているとある。
 この「ウルシオールが、水に溶けているラッカーゼ酵素の酸化作用を経て塗膜にな」るという。
 ひところ話題になったプロポリスは、「樹液を集める一部の蜂が分泌する唾液と樹液が混ざったもの」だというが、これは健康食品やプロポリスを説明するサイトが数知れずあるので、木酢液のことも含め、ここでは敢えて深入りしない。
 
 琥珀のこと
 樹液というと、人によっては琥珀をまず思い浮かべるかもしれない。
Virtual Museum of Gems & Gem Crystals」なるサイトの「琥珀(Amber)」の頁を覗かせてもらう。
「琥珀は木からにじみ出た樹脂の化石とも言えるもので」、「正確には樹脂から乳香、ミルラ等の芳香成分や、アルコール、油脂,琥珀酸等の揮発成分が失われて硬化したコーパル(Copal)と呼ばれる樹脂が地中に埋もれている間にすっかり揮発成分を失い、それにつれて主にテルペンと呼ばれる環状の炭化水素の重合が進んで完全に不活性化したものが琥珀と呼ばれ」るのだという。
 驚くのは、「一般に樹脂が琥珀になるには地中で200~1000万年もの年月が必要と考えられてい」ること、しかも、「時間に加えて堆積していた地層の湿度、圧力、水分、化学的な条件がかかわっていることは確か」だと言う点である。
 但し、「その詳細はまだ良く解明されていません」と注記してある。
 また、「琥珀は海岸や川岸等で容易に発見される上に、柔らかく、加工が簡単で、その上美しい色合いの透明な宝石として、おそらく人類が発見した最初の宝石であるといっても間違いないでしょう」というのは、小生には初耳である。
 人類が発見した最初の宝石! そうだったのか!
 以下、上掲のサイトでは、「琥珀の道」「琥珀の呼び名」「琥珀の年代」「世界の琥珀」「琥珀の贋物」などと興味深い記述が続く。

 琥珀の贋物
 最後の「琥珀の贋物」だが、本来は、「世界中で採掘される琥珀の量はおそらく年間1000トンを超えると考えられます。比重が水とほぼ同じで軽く普通の宝石と比べれば体積では3倍くらいになり豊富な量が安定して比較的に手ごろな価格で供給されています。 したがってわざわざ贋物や模造品を作る必要もありません」というのに、なにゆえ「琥珀の贋物」の製造・販売が後を絶たないのか。
 それは、一昔前、一億年以上も昔の昆虫(蜂)が当時の形そのままに含まれている琥珀が話題になったことがある。その昆虫から遺伝子を採取し、現代の遺伝子技術で恐竜の時代の生物を再生させる…なんてことが、スティーブン・スピルバーグ監督映画「ジュラシック・パーク」のヒットに絡んで、好奇心を掻き立てたものだった。
 この映画の場合、「富豪(リチャード・アッテンボロー)が古生物学者(サム・ニール)や女仲間(ローラ・ダーン)などとともに蚊の化石の、その蚊が巨竜の血を吸っていたことを確かめ、その血から巨竜の卵を再生してついに巨竜の島を作らんとする、というようなストーリー」だった(「淀川長治の銀幕旅行」から)。
 つまり、琥珀の中に原型を留めている昆虫からこの映画にあるようなストーリーを、誰しもが夢見てしまったりしたのだ。
 この古代の遺物の封入された貴重なる琥珀…、喉から手が出るほど欲しがる人は、小生も含め浜の真砂ほどにもいるのだろう。だからこそ、本来は安価なはずの琥珀であるにも関わらず、「琥珀の贋物」が横行するわけなのである。

 樹液の成分から、ちょっと話が飛んでしまった。樹液の世界も奥が深い。
 ただ、一読された方は気づかれているかもしれないが、ある意味、肝心なことに話が及んでいない。つまり、樹液や樹液流については多少は分かったとして、蒸散し発散する成分は一体、どんなものなのかについては調べきれていないのである。水分だけが蒸散(蒸発)するのか、樹液の成分の中で水分以外にも蒸散するものがあるのか、だとしたらそれはどんな樹液成分なのか。それとも、蒸発するのはあくまで水分であって、その際、葉っぱの表面の老化した細胞が剥がれ落ち、水分と共に飛散するのか、あるいは、葉っぱの表面のニス状の物質が水に溶けて飛散するのか、それとも、葉っぱなどの表面に附着した埃(それとも、鳥や昆虫などの排泄物)が蒸散する水分と共に空中に飛ばされていくに過ぎないのか…、可能性はあれこれ考えられるが、残念ながら、小生はネット上で関連する情報を見つけ出すことができなかったのである。
 誰か知る人がいるなら、教えて欲しい。

 最後に、気分一新ということで、前回、宮沢賢治の『春と修羅』から、「月光液」という言葉の織り込まれた「真空溶媒」と題された詩の一部を紹介した。
 今回も、小生の好きな宮沢賢治から、樹液を陰に陽に深くイメージされた詩を紹介して、本稿を終えたい。

 最後に
春と修羅』(宮沢賢治)には、樹液という言葉の織り込まれた詩が先述以外にも見出される:

 過去情炎

 截られた根から青じろい樹液がにじみ
 あたらしい腐植のにほひを嗅ぎながら
 きらびやかな雨あがりの中にはたらけば
 わたくしは移住の清教徒(ピユリタン)です
 雲はぐらぐらゆれて馳けるし
 梨の葉にはいちいち精巧な葉脈があつて
 短果枝には雫がレンズになり
 そらや木やすべての景象ををさめてゐる
 わたくしがここを環に掘つてしまふあひだ
 その雫が落ちないことをねがふ
 なぜならいまこのちひさなアカシヤをとつたあとで
 わたくしは鄭重(ていちよう)にかがんでそれに唇をあてる
 えりをりのシヤツやぼろぼろの上着をきて
 企らむやうに肩をはりながら
 そつちをぬすみみてゐれば
 ひじやうな悪漢(わるもの)にもみえようが
 わたくしはゆるされるとおもふ
 なにもかもみんなたよりなく
 なにもかもみんなあてにならない
 これらげんしやうのせかいのなかで
 そのたよりない性(せい)質が
 こんなきれいな露になつたり
 いぢけたちひさなまゆみの木を
 紅(べに)からやさしい月光いろまで
 豪奢な織物に染めたりする
 そんならもうアカシヤの木もほりとられたし
 いまはまんぞくしてたうぐはをおき
 わたくしは待つてゐたこひびとにあふやうに
 鷹揚(おうやう)にわらつてその木のしたへゆくのだけれども
 それはひとつの情炎(じやうえん)だ
 もう水いろの過去になつてゐる
                         (一九二三、一〇、一五)

 宮沢賢治(春と修羅)は、やっぱり天才だね。

 小生には、関連するエッセイに「日の下の花の時」や「「ツツジの季節が終わる」拾遺」「ウォルフ著『地中生命の驚異』」などがあります。

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コメント

琥珀って聞くと、ぱぱぱ~と、思い浮かぶのが3つ。

一つは、ここにもあるように『ジュラシック・パーク』。
映画化されて、パート3までありましたね。(全部観ちゃいました。^^;)
でも、原作には、勝てませんね。
想像を超える恐怖ってのは、ないのかもしれない。
なんせ、スピードが、映像のほうが、遅いんですもん。

次に男の子の名前。
マンガ『犬夜叉』に出てくる悲劇の人。
お姉さんが珊瑚と言う名前で、確かに華やかな人なんですが、
どこか哀愁の漂う「琥珀」のイメージにぴったりだったりするのですよね、その男の子。

その次が『琥珀の望遠鏡』。
人間の肉眼で見ることが出来ない物質(?)ダストを見ることが出来る
不思議な道具。
ダストがとても重要な鍵を握る物語で、それは重要な役割を
果たさずにはいられないですよね。

あ~、すみません。
一人、妄想の世界へ飛んでしまいました~。

投稿: Amice | 2005/05/15 10:25

琥珀というとわたしはカメオとかコーヒーしか浮かびません 貧相でカナシイです

紅茶やコーヒーがすきなんですけどね
いまだ大量のクスリを服用中につき
カフェインレスの飲み物をドクターに勧められます

パニックもカフェインに誘発されるとか・・・
本当はがぶがぶ飲みたいです

投稿: オリオリ | 2005/05/15 14:09

オリオリさん、こんにちは。
>琥珀というとわたしはカメオとかコーヒーしか浮かびません 

 小生、????です。あとで調べてみよっと。これじゃ、貧相以下です(と、ヒロシ調)。

>大量のクスリを服用中につき

 そうでしたよね。
 さて、小生のお袋も同上なのですが、コーヒーは体にいいからと、インスタントのコーヒーをお茶代わりに飲むという習慣が久しい。当然、多少ながらカフェインも入っているし。
 脇で見ていて、大丈夫なのかなって思うけど、そのこと、お医者さん、知ってるのかな…。

 パニックとカフェインのこと、以前、あるネット仲間の方も言っていたような。パニック障害だと自分で書いておられましたが。
 関係ない(こともないけど)小生も実は通院中(であるべきなのですが)で、薬を飲んでいなければならない身。なのに、病院へ行ってないってこと、思い出しました。

投稿: 弥一 | 2005/05/15 19:37

Amice さん、コメント、ありがとう。
琥珀での連想、すごいね。「ジュラシック・パーク」、全部、観たのね。小生は一部をテレビで見ただけ。これじゃ、ジェラシック・パークです。
「ジュラシック・パーク」の原作…。悲しいかな、小生は、コナン・ドイルの『ロスト・ワールド』を遠い昔、読んだだけ。
マイクル・クライトンの本も面白そうですね。近いうちに読んでみたいね。

「犬夜叉」って、高橋 留美子のそれ。大きな声じゃ言えないけど、某所のゴミ置き場で一冊だけ拾ったことがある。この作品には七宝とか宿り蛹とか雲母とか珊瑚とか弥勒とか奈落とか瑠璃とか、とにかく長篇だけに多彩な登場人物があって賑やか。これらの名前って、高橋 留美子さん、何処から仕入れているんだろう。こういった名前だけで、コハクなります。
Amice さん、これ全部、読んだの?

フィリップ プルマン著の「琥珀の望遠鏡」は初耳。これも面白そうだね。ネットで調べたら、評判がいい。
当面、読めそうにない。Amice さんに解説して欲しい…なんて。

 それにしても、琥珀の世界も広いね。オイラはとりあえず、偽者でいいから琥珀の置物が欲しいな。中に昆虫(これも偽者でいい)の封入された奴。
お酒の好きな人なら、琥珀というと、ウイスキーなんだろうし、琥珀をキーワードにしても、何冊か本を書けそうだ。
誰か挑戦して欲しいね。


投稿: 弥一 | 2005/05/15 20:03

う? 評判良いのか~、『琥珀の望遠鏡』。
ま、一応仏教国だからな~、日本は。

カテゴリー分けして、「本の感想」のところに感想書いてます。
よろしければ、お寄りください。
えっと、8月2日版です。
『琥珀の望遠鏡』は、ライラ・シリーズの第3巻です。
えぇ!3冊とも厚~~~い本です!

投稿: Amice | 2005/05/15 21:38

Amice さん、またまたコメント、ありがとう。
『琥珀の望遠鏡』の感想、あるんだね。今日は、もう就寝。仕事が待ってる。後日、ゆっくりお邪魔します。
やばい、寝なくっちゃ。

投稿: 弥一 | 2005/05/16 03:44

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