青葉時雨…洒涙雨
このところ番外編的な文章が続いた。ここで季語随筆と銘打っているこのサイトの本来のテーマに戻ろう。つい一昨日もそぼ降る雨だったが、明日辺りはまた雨になりそう。だからというわけでもないが、今日、選んだ季語は「青葉時雨」である。
いつもお世話になっている、「俳句歳時記の部屋」の「夏の季語 自然編 (50音順)」によると、「青時雨」といった表現もあり、「青葉した木々に降りたまった雨がぽたぽた落ちること」という。
「若葉雨」や「樹雨(きさめ)」という類義語もあるようだ。どちらかというと、梅雨前よりも、初夏をイメージさせる言葉のようだ。
「青時雨 」という名の、本醸造をベースにしたカクテルがあるらしいが、さて、どんな味・香り・色合いなのだろう。
それなりにイメージの膨らむ季語だと思うのだが、ネットでは句作の例が少ない。「松の香の青葉時雨となりにけり 美保子」(「月例句会報告(2001年前半)」から)とか、「子規堂や青葉時雨に偲ぶ旅」(「第四回三汀賞入選句集(インターネット版)」から)、「夏音も青葉時雨に小休止 酔弘」などが目立つ程度。
「時雨(しぐれ)」については、この季語随筆でも何度か採り上げた。例えば、「時雨ていく」など。
ここでは「驟雨と時雨」なるサイトを参考にさせてもらう。
その「時雨(シグレ)について」の項が類する言葉が一覧できて、壮観だったりするが、今は、「青時雨」に注目する。「冬の季語である「時雨」に、青葉の青を付して初夏の表情をだした言葉。 青葉、若葉が目にしみいるこの季節、そのういういしい葉からしたたり落ちるしずくを「時雨」に見立てた風情のある言葉」とある。
小生は未読だが、高橋 順子文/佐藤 秀明写真の『雨の名前』(小学館、2001.6発行)は、「育花雨、甘雨、青時雨、御雷様雨、秋雨、御精霊雨、雨雪、風花…。雨の日を3倍に楽しむための、雨の名前の本。雨の名前422語を、美しい雨の写真や詩、エッセイと共に贈る」とのこと。雨の名前422語! いかにも梅雨時に限らず雨降りの日の多い、しかも、嫌だ嫌だと思いつつも、降ったら降ったで妙に雨の風情に魅入られてしまう日本の土壌ならではなのだろう。かく言う小生も雨は、うんざりすることもあるけれど、雨の風景などは嫌いじゃない。雨に因む掌編も数知れず(大袈裟!)書いている。例えば、「銀箭(ぎんぜん)」など。念のために断っておくけど、本作は、最後まで読まないと醍醐味は味わえない仕組みになっている…。
他にも、「狐 の 嫁 入 り」など。
水に恵まれている…、けれど、せっかくの雨水をみすみす流していくばかりで、生活の水などとして使ったりはするものの、大切に使いきるという心性は育まれていないようだ。少なくとも、雨水の貴重な国の人からは、宝の流れ去るのを見送るばかりだと思われているに違いない。
雨の名前というと、涙雨は、ちょっと異質かもしれない。けれど、これが「洒涙雨」となると、趣向が違ってくる。この言葉の中の「洒」は、飲むお酒の「酒」に似ているが、「洒ぐ」と表記して「そそぐ」と読むもの。「瀟洒」や「洒落っ気」という時の「洒」として、それなりに目にしているはずだ…が、なかなか気が付かないものである。
「洒涙雨(さいるいう)」とは、「灑涙雨(さいるいう)」とも表記し、「七夕に降る雨」のことである。
「函館新聞-臥牛山7月」(7月5日(土))を覗いてみると、「七夕に降る雨は洗車雨(せんしゃう=陰暦7月6日)と酒涙雨(さいるいう=同7日)。天の川の織姫に会うため乗って行く牛車を洗う雨。1年に1度のデートを楽しんで、再び離れ離れになる愛別離苦や惜別の涙をそそぐのが酒涙雨」とある(ネットで見つけた一番丁寧な説明だったのだが、悲しいことに漢字表記に涙雨が…)。
どうやら、見たところ、「青葉時雨」よりも「青時雨」のほうが季語として、あるいは言葉の響きとして好まれているようだ。句作の例も豊富で枚挙にいとまがない。例えば、「円居して古りゆく農家青時雨 まさみ」など(「円居」は「まどい」と読む)。
「青時雨」のほうは、いつかまた稿を改めて、採り上げてみたい。
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コメント
色々な雨の種類に思いをはせております
駄作ではありますが旧HP内に設置しておりましたピアノ曲に5月の雨という
オリジナルの曲と詩があります
10番の記事なので過去ログたどってみてね
私がピアノで雨を表現するとこんな風に聞こえるのです(≧∇≦)/
いつも下ねたにピントが合うので
たまにはまじめにね★
投稿: オリオリ | 2005/05/18 00:09
オリオリさん、こんにちは。
5月の雨、気だるい午後の遣る瀬無い憂愁なのかな。傷も癒えてきて、許してあげてもいいような、許してくれているようでもあるような。
ルルちゃん、可哀想だったね。もう、元気になって、ぜんまいの当番?! ルル玉、手のひらで転がしてみたい。
投稿: 弥一 | 2005/05/18 02:32
昨日そして今日と、この記事へのアクセスが急増している。
やはり、「洒涙雨」が七夕に降る雨ということ、東京など広い地域でせっかくの七夕が曇天だったことが関係するのだろうか。
投稿: やいっち | 2007/07/07 23:49