蛤 浅蜊 桜貝 鮑 飯蛸 海雲 海胆…
春四月の季語例を幾つか並べてみた。これらの季語の共通点は、などと訊くのは野暮だろう。みんな海の生き物で、且つ、魚ではないが食べ物としても馴染み深いものばかりであろう。
馴染み深いというのは、漢字表記しても大概の言葉(名前)が読めることからも言えそうだ。
以下、野暮の上塗りになってしまうが、いつも勝手にお世話になっている「風香」さんサイトの「季語集・春」を参照させてもらいつつ、一通り、季語例を見渡しておこう。
「蛤(はまぐり)」は、「蛤汁 蛤吸 蛤つゆ 焼蛤」などの類義語があり、「二枚貝、肉は美味で吸物に良く鍋物や焼蛤は絶品」
「浅蜊(あさり)」は、「ハマグリ科の二枚貝、浅海の砂浜、砂泥地、河口で取れる」
「桜貝(さくらがい)」は、「花貝 紅貝」という類義語があり、「桜色の透きとおった殻をもつ二枚貝」
「飯蛸(いいだこ)」は、「望潮魚」という類語があり、「タコ科に属する小型の蛸で、頭が親指大と小さく主に煮付で食す」
「海雲(もずく)」は「水雲 海雲採 海雲売 海雲桶」などの類義語があり、「細くもつれた糸状をした紫褐色の海藻、三杯酢や汁の実に使う」
「海胆(うに)」は「海栗 粒雲丹 海胆の棘」といった類義語があり、「海底の岩礁に付着して生息する棘皮動物で種類も多い」
他にも、「海髪(うご)」なんかがあって、「おごのり」という類語があり、「暗紅色の紐状の海藻、熱湯をかけると緑色になり刺身のつまにする」というのだが、小生、恥ずかしながら、この生き物というのか食べ物は初耳。
「蜆(しじみ)」は「真蜆 紫蜆 瀬田蜆 業平蜆」などの類義語があり、「淡水または帰水産の小粒の二枚貝」
「鹿尾菜(ひじき)」は「ひじき刈 ひじき干す ひじき藻」などの類義語があり、「海中の岩石に付着成長する食用藻、総菜としてなじみ深い」
「磯巾着(いそぎんちゃく)」は、「磯の割れ目などにくっついている腔腸動物」というが食べ物ではないのか。
「若布(わかめ)」は「和布 新若布 若布刈 若布売」などの類語を持ち、「一般的に太平洋の若布は肉厚で日本海のそれは薄い」
「海苔(のり)」は「岩海苔 海苔舟 海苔掻く 海苔干」などの類義語を持ち、「食用の海藻」
「俳句歳時記の部屋」の「春の季語(動・植物編-種類順)」を参照させてもらうと:
「栄螺(さざえ)」は「つぶ 栄螺の壺焼 焼栄螺」などの類義語があり、「海底の岩場にいる棘のある巻貝」といった項も見つかる。
他にも、「鮑(あわび)」「細螺(きさご)」などの魚以外の海に住む生き物で且つ食用になっている種が季語となっている事例がある。
ふと、「海鼠(なまこ)」は、どうなんだろうと思ったりしたが、これは冬の季語らしい。ちなみに、ネットで「鬱の字をそれらしく書きなまこ噛む」(北原武巳)という句を見つけた。評釈(ikkubak)にもあるが、滑稽味も滋味もある句だ。
では、小生の好きな「海月・水母(くらげ)」は、どうだろうかと調べてみると、夏の季語のようだ。
これらの貝や海苔などの生き物が春の季語なのは、何故なのだろう。収穫の時期ということなのか。たとえば、「浅蜊(あさり)」を辞典(「大辞林 国語辞典 - infoseek マルチ辞書」)で調べてみると「海産の二枚貝。殻長4センチメートル内外。長楕円形で、殻表には細い布目状のすじがあり、色・模様はさまざま。淡水の混じる浅海の砂泥地にすむ。食用。北海道以南に広く分布」とある。
「栄螺(さざえ)」は同上の辞典には説明が載っていない。何故?
ならばと、「mini魚貝類辞典」に当たってみると、「海産の巻貝。貝殻は卵円錐形で、殻高10センチメートル以上になる。浅海の岩礁にすみ、殻表に長く太いとげがあるが、内海の波の静かな所の個体にはとげのないものがある。刺身・壺焼きなどにして美味。貝殻は貝細工・ボタンの材料。北海道南部から九州、朝鮮半島南部に分布。さざい。[季]春。《角欠けていよ老いし―かな/原石鼎》」と説明も一味違う。さすがサザエだ…じゃない、魚貝類辞典の威力だ。
ちなみに、ネットで「牛窓の瀬戸に、海士の出で入りて、さだえと申すものを採りて、舟に入れ入れしけるを見て」として「さだえ棲む 瀬戸の岩壺 求め出でて いそぎし海士の 気色なるかな」という歌を見つけた(「山家集」
より)。
せっかくなので(何がせっかくなのか分からないが)、上掲の「mini魚貝類辞典」で「蛤(はまぐり)」の項を覗いてみる。すると、以下のような懇切丁寧な説明が示されている:
(1)〔「浜栗」の意という〕海産の二枚貝。貝殻は丸みをおびた三角形で、表面は平滑で光沢がある。色彩は変化が多いが、黄褐色の地に栗色の紋様のあるものが多い。内面は白色で陶器質。肉は食用とし、貝殻は焼いて胡粉(ごふん)を作る。日本では北海道南部以南の内湾の砂泥にすむ。養殖も盛ん。[季]春。《―を掻く手にどゞと雄波かな/虚子》
(2)(1)の貝殻。貝合わせに用いたり、膏薬(こうやく)を入れる容器として用いた。
(3)女陰をいう。「お前の―ならなほうまからう/滑稽本・膝栗毛 5」
――能(よ)く気を吐(は)いて楼台(ろうだい)をなす
〔史記(天官書)〕古く中国で、大蛤(=蜃(しん))が吐く気で海中から楼台の形があらわれるとされていたこと。→蜃気楼(しんきろう)
(転記終わり)
ちなみに、蜃気楼のことは、既にこの季語随筆でも「蜃気楼・陽炎・泡」や「蜃気楼・陽炎・泡(続)」の項で「蛤」と絡めて扱っている。
「蛤(はまぐり)」というと、Hなこともついつい連想してしまうが、蛤御門の変(禁門の変) という長州藩と御所の護衛に当たっていた会津・薩摩藩との間での激戦を逸するわけにはいかない。
が、「とんでもとらべる」の「京都御苑(御所)その1 御所の鬼門・猿ヶ辻へ まずは蛤御門を通過 とんでもとらべる京都編:京都のお寺と神社」によると、「門の名前は、別のお名前があったのかしら?・・・と、調べてみたら、「新在家門」といわれていたそうです」とのこと。
このサイト主の方によると、「この厳めしい名前の門が、ハマグリって名前がついたのは、それまで閉ざされていた門が初めて開かれたため、「焼けて口開く蛤(はまぐり)」にたとえて、蛤御門と呼ばれるようになったと言われています」だって。
粋というのかユーモアがあるというのか、さすがと思うしかない。
「鮑・鰒(あわび あはび)」の説明も、「mini魚貝類辞典」に当然ながら載っているので見てもらいたいが、中でも、「鮑の貝の片思い」という文句があることを教えてもらったのは有り難い(なにゆえ有り難いのかは分からないが)。
その意味するところは、「アワビは殻が二枚貝の片方だけのように見えるところから、一方からだけの、相手に通じない恋をいう。磯(いそ)の鮑の片思い」なのだとか。
となると、小生は、アワビをたっぷり食ったほうがいいのか、節制したほうが効果があるのか、恋の処方箋も含めて書いてくれたら嬉しいのだが。
尤も、「体にも心にもおいしい! 旬の食材~春【健康60】」によると、小生には初耳なのだが、「もうすぐひなまつりですが、ひなまつりには蛤のお吸い物が定番ですよね。また、蛤の貝殻は同じ貝の貝殻でないとピタリと合わないことから、夫婦愛の象徴として婚礼料理に使われたりするそうです」というから、処方箋となると、「蛤」をたっぷり喰えばいいってことか。やはり、人は「蛤」に還るということか。
どうも、肝心のことが分からない。というか、調べ方に問題があるのか。表題の季語例群が何ゆえ春の季語扱いなのか、という点が不明のままである。
やはり、誰でも思うように春の食材だからと理解するしかないのか。
確かに、上掲の「体にも心にもおいしい! 旬の食材~春【健康60】」でも、蛤(はまぐり)やサザエは春の旬の食材として推奨されているし、まあ、近所のスーパーの鮮魚コーナーでも眺めつつ、表題の貝や海苔などの旬ぶりを実感した方がいいのだろう。
そうはいっても、大好きな(しかしめったに口にすることはない)「海胆(うに)」のことなど、調べきれなかったのは悔しい。
思うに、表題のどの種も、単独で調べてみるに値する味わい深い生き物なので、まとめて扱った小生が無精すぎたのだろう。
機会があったら、再度、調べて見たい。
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コメント
蛤 浅蜊 桜貝 鮑 飯蛸 海雲 海胆…
これは健康食品かな
いや違う春四月の季語ですか
どうも俳句にうといので 連想が見当違い。
でも 酒のあてによさそう、食い意地ばかりの
健ちゃんです、俳句も見るのは好きですよ!
投稿: 健ちゃん | 2005/04/23 22:24
健ちゃんさん、コメント、ありがとうございます。
いやー、確かに健康食品というか、寿司ネタというか、俳句の季語なので、食べるネタじゃなく、生き物として見なければいけないのに、つい、食指が動きますよね。
これらが春の季語なのも、今頃が収穫そして食卓に上がる時期だからなのかなと推測しています。
小生、酒は飲まないのですが、食べるのは大好きです。
健ちゃんさん、俳句、どうぞ作ってみてください。小生も、始めてやっと半年。しかも、先生についていないのと勉強不足で、基礎的な素養が追い着かず、苦労しているだけ。
俳句作りの同志が欲しいです。
投稿: 弥一 | 2005/04/24 06:57