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2005/03/13

山笑ふ・花粉症・塵

「花粉症」が春の季語として定着しているのかどうか、分からない。仮に正式に季語扱いされていないとしても、季語例に含まれるのは時間の問題だろう。
(正式に、と、書いていて、一体、誰が決めるのだろうと疑問に思った。実は、日本俳句協会でもあって、何人かの委員が居て、侃侃諤諤の議論の末に多数決で、「はい、花粉症殿、貴殿は近年の目覚しい活躍ぶりに鑑み、目出度くも我が国の伝統ある俳句の世界の仲間入りを果たしたことを祝し、且つ、呪い、ここに季語例の一員に選ばれたことを確認するものである…」なんて殿堂入りの儀式があったりするのだろうか。)
 既に季語扱いしているサイトもある。「『増殖する俳句歳時記』季語検索」や「春の季語(行事・暮らし編-種類順)」などなど。
 いずれにしても、俳句に吟じられる機会と句の事例が増えれば、季語例の仲間入りを果たすのだろう。

 花粉症は、スギ花粉のせいだという説が有力のようである。一方、ディーゼル車などから排出される粒子状物質こそが原因物質になっているのだという説もある。他にもハウスダスト、食品添加物などなどが指摘されたりする。
 最近では、スギ花粉やヒノキ花粉、夏だと「ブタクサ」により花粉症が発生するのだというのは、<常識>になりつつあるようだ。
 ディーゼル車などから排出される粒子状物質については、お医者さんの一部にはスギ花粉症との関連は明らかに間違いだと指摘されたりもしている。「3443通信トップ」の「2002・8 週刊文春宛に書いた手紙 7月11日号より 三好耳鼻咽喉科クリニック院長 三好 彰」によると、「スギ花粉症が近年激増したのは、戦後復興のために山々の木々を切り倒して住宅建築に使用した、そのために治山・治水ができなくて大洪水を来した(キャサリン台風など)、その対策として1950年代に全国一斉にスギの木を植えたが、それらが花粉を飛散させる樹齢30年を迎える1980年代になった(日本で初めてスギ花粉症が社会問題になったのは1979年)、その結果です」ということである。

 尤も、ディーゼル車などから排出される粒子状物質の規制は、大気汚染はもとより、発がん性や気管支喘息 など人の健康への影響が懸念されるからだろう。
 実際、小生はタクシーで都内を走り回っているが、ボディの煤っぽい汚れは減っていると実感している。また、都バスやトラックの後ろをオートバイなどで走るのは、黒煙が怖くて嫌だったが、今は、さほど真っ黒な煙に塗れることもなくなりつつある(ような気がする)。
 
 スギ花粉症の原因が何であるにしろ、とにかく花粉症という症状に苦しむ人は厳然と居る。しかも、今年は花粉症に悲鳴を上げている人がなんと多いことか。タクシーのお客さんも、街中を歩く人も、大仰な(花粉症に悩まされない人にはそう感じる)マスクと、さらには特殊な眼鏡をした人の姿を随分と見かける。
 今年は、明らかに異常なほどの蔓延ぶりだ。また、花粉の飛散量も近年、例を見ないほどのようだ。聞くところによると、杉の山だと、山や森が花粉で赤茶色に見えるというからすさまじい。
 しかも、花粉症の厄介なのはこれという治療法がなく、未然に防ぐため、とにかく武装したり、外出を控えたり、といった対策があるばかりである点。薬もあることはあるが、不満を抱いている人が多いようである。

 さて、「山笑う」のほうは、春三月の季語であり、「草木の芽吹き始めた淡い色合いの春の山の形容」といった意味合いのようである。
優嵐歳時記 - 【山笑う】」によると、「「山笑う」とは、早春の山がうっすらと霞がかってどことなく艶めいてくるさまをあらわして」いて、「「春山澹冶にして笑ふが如く」といった北宋の山水画家郭煕の言葉から出た季語」なのだとか。
「山笑う」というと、「山眠る」(冬)「山粧う」 (秋)といった季語を思い浮かべる方も多いだろう。
西部医師通信 No.16」などによると、「北宋の画家・郭煕の 「林泉高致」 に 「真山水の烟嵐、 四時同じからず。 春山とう冶にして笑ふが如く、 夏山蒼翠にして滴る如く、 秋山明浄にして粧ふが如く、 冬山惨淡として睡るが如し。」 とあることから来ている」とか。
 参考:[画品、郭煕四時山「春山淡冶而如笑、夏山蒼翠而如滴、秋山明浄而如粧、冬山惨淡而如睡」]

 春の到来は、多くの人にとっては望ましいものだった。今も、やはりそうだろう。
 が、花粉症という厄介なアレルギー症状を訴える多くの人には、憂鬱な時節となってしまっている。車で走っていても、気温がほどほどだと、窓をある程度開けて涼しい風を車内の篭った空気と入れ替えしつつ走る、なんてことも、気兼ねなくはできなくなった。お客さんの様子を伺って、花粉症に苦しんでいないかどうかを確認して窓を開閉することを余儀なくされている。
 木の芽も芽吹き始め、山の根雪も溶け始め小川などに注ぎ込まれていく、木の幹や枝だって固く身を凍らせていたのが緩み始めているようで、木石さえ、開放的になりつつある。町を行く女性も薄着になってきて、マフラーで襟元をガードすることもないし、分厚いコートで身を包み込むこともなくなってきている。春うららというか、春爛漫というより、春爛々といった感じなのである。
 なのに、花粉症が。
 朝日や夕日を浴びて、山の森などが赤っぽく見えても、それは陽光を浴びて山が微笑んでいる。暖かな日光のお蔭で寒気から解放されて火照ってさえいるように見える、そう、山が笑っているように見えるはずが、実は溢れ返るほどの花粉のせいで赤茶色なのだとしたら、情ないことこの上ない。
 山が笑うが、暖かな時節の到来で笑っているのではなく、下界の多くの人々が困る様子を高見の見物して笑って(嘲笑って)いるのだと、意味合いがまるで逆転しかねなかったりする。山、花粉で装う。人、外出を控えて不貞寝する。
 
 過日、シドニー・パーコウィツ著『泡のサイエンス―シャボン玉から宇宙の泡へ』(はやし はじめ/はやし まさる訳、紀伊国屋書店刊)を読了した。
 この本は、森羅万象(ナウマンゾウとは読まない、「しんらばんしょう」である)が素粒子の次元から宇宙全体の構造に至るまで、この世界がいかに泡に満ちているかを縷縷、語ってくれる。
 その中で、海の波(潮)が飛沫となり空中に飛散して大気中に広がり、それが雨粒の芯(核)となっている、という話があった。その量たるや膨大なものだという。
 その連想だろう、図書館に行ったら、ハナ・ホームズ著『小さな塵の大きな不思議』(梶山あゆみ訳、紀伊国屋書店)という本が目に付いた。
 本書はありとあらゆる「塵」を扱っている。読みやすい。で、即座に借りることに決めた。
 まず、砂漠から一年で10億トンから30億トンの砂塵が巻き上げられているし(10億トンだと、有蓋貨車で1400万両相当)、海からは35億トンの潮(塩)の欠片が吹き上げられているという。
 植物からは10億トンの有機化合物が吐き出されている(その3分の1が微粒子となって大気中を漂っている)。
 その他、火山や海中のプランクトンからも、山火事での煤という形でも、山肌が氷河などにより削られる、生物たち(カビの胞子、ウイルス、バクテリア、花粉、枯れた葉っぱの繊維、虫けらの死骸…。
 そこに人間の産業活動による塵の追加である(人の髪のフケや肌の残骸は度外視しても)。化石燃料を燃やしつづけているのだ。
 ところで、砂漠から一年で10億トンから30億トンの砂塵が巻き上げられていると書いたが、その大半は人間の(産業活動や開発、なかにはゴルフ場のようにレジャーだったり)せいだと考えられている。砂漠から砂塵が舞うのは当たり前のようだが、砂漠は初めから砂漠だったり荒地だったりしたわけではなく、多くは緑野だったのだ。
 それが開発されて土壌が荒れて、土埃などが舞い上がるようになったわけである。
 哲学や文学の発祥の地の一つである古代ギリシャも、ポリスなどが発達する前は緑滴る山だったとか。が、都を作るため、木々を徹底して伐採し尽くした結果、大理石の柱廊の背景が砂漠っぽく成り果ててしまったのだという。
 つまり、「2004年、アテネオリンピックが開催されるギリシャで、深刻な砂漠化が進行しています。既に国土の20%~35%が表土を失い、このまま放置すると国土の60%以上が砂漠化するというの」だという。
 が、「もとは豊かな緑に包まれていたギリシャでしたが、紀元前8世紀に始まる文明の発展と引き換えに砂漠化への道を辿ります。神殿建築や軍艦に使う木材確保や、貿易用に栽培するオリーブやブドウの果樹園を次々と作った結果、森林伐採が進み、自然の生態系が破壊されていきました。」というのである(「素敵な宇宙船地球号 ここが見どころ!! [第286回] 5月18日 23:00~23:30放送 「神々の大地を守る」 ~ギリシャ・粘土団子の実力~」より)。
 サハラ砂漠も嘗ては緑の大地だったとか。
 緑の消滅は、所謂産業もあるし、農耕もあるし、牧場となって家畜に食い尽くされたということもあるのだろう。いずれにしても、人間の活動と無縁ではない。

 スギ花粉も人が、事情があってのことだが、大量の杉を植えたツケが回ってきたのだ。空中に飛散する塵。春の霞も、その大半が人が撒き散らした煤や埃や花粉や繊維屑が霧の粒の核(芯)となっているとなると、興醒めとなるかもしれない。

 春朧(はるおぼろ)霞のせいと思いたい
 春霞(はるがすみ)花粉がなけりゃ遥か澄み?
 山笑う…同情それとも憐憫か
 砂塵舞い潮の花舞いてんてこ舞い
 泣き濡れてオレを見る目のうらめしそう
 鼻水が目から流れる齢(よわい)かな
 マスクするあなたは彼女か強盗か
 化粧するマスクで隠してメガネまで
 マスクして美人を装うそこの人
 春の風マスク越しでは興醒めだ
 マスクして花粉蹴散らし煙草吸う


[[asahi.com: 列島上空、花粉ドーム 高度4800メートルでも確認](社会面 2005年04月11日11時43分)によると、「今シーズンのスギ花粉の飛散量は過去最大。しかも富士山よりもはるかに高い、高度4800メートルまで飛び、列島は上空まですっぽりと花粉に覆われている。「非常に多い」状態は月末には収まるが、その後は雪解けとともに高地からの花粉が届く可能性が高い」とか。
 この情報は、「NPO「花粉情報協会」の観測でわかった」とのことで、「ワセリンを塗ったガラス板を屋外に1日放置し、付着する0.03ミリの小さな花粉の個数を観測している。1日1平方センチメートル当たり50個以上で「非常に多い」とされる」という。
 同上の記事によると、「ヘリコプターによる調査は3月26日、埼玉県蓮田市上空で行われた。吸引機で採取した結果、1立方メートルあたり、高度4800メートルで48個、3000メートルで24個、2000メートルで66個のスギ花粉があった。調査にあたった同協会理事長の佐橋紀男・東邦大教授(植物学)は「これだけの高度でスギ花粉が観測されたのはわが国では初めて。列島は上空まですっぽりと花粉に覆われているのではないか」という」のである。
 さらに怖い情報もある。「最近は、量は少ないものの秋にもスギの花粉が飛ぶこともあり、症状を訴える人が増えているという。春の花粉症患者が年々増え、それに伴い量の少ない秋でも症状を訴える人が増加しているとみられる。佐橋教授は「一年中、くしゃみをする人もいるのではないか」と心配する」というのだ。 (05/04/13 追記)]

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コメント

弥一さん こんばんは。
掲示板などの会話にも、暖かくなったね、花が咲いたね、に続いて多い春先の話題が「花粉症」ですね。
もう充分「季語」よね・・と思って、念のためうちにある 新しい季語辞典をひいたらちゃんと載っていました。
(2004年発行 実用俳句歳時記 成美堂出版)
くしゃみ、鼻水よりも、私はまぶたが下りてきて眠いです・・これって花粉症のせいじゃない、か・・。

投稿: nazuna | 2005/03/13 21:53

nazuna さん、そうですか。新しい季語辞典(2004年発行 実用俳句歳時記 成美堂出版)に載っているのですか。
 ありがとう。教えていただいて、嬉しいです。
 ところで、言葉が新しく季語に加わるには、どういう条件が要るのでしょう。
 それとも、使われる機会が増えたら、それでOKなのでしょうか。
 眠くなる…、お薬を飲んでいるのじゃなかったら、多分、鼻がどうしても詰まり気味になるので、幾分か酸欠状態になるからではないかな。
 小生は花粉症の症状はないけど、鼻呼吸が苦手なので、常時、酸欠気味。常に眠気と戦っています。

投稿: 弥一 | 2005/03/14 06:54

山笑ふって、素敵な表現ですね。
冬の寒いけれども透き通った空気を通して、
富士山は、くっきりはっきり神々しく見えます。
それが、春の空気になると、
天気が良くてもどこか薄ぼんやりと見えるようになります。
そうすると、印象が柔らかくなります。
どう見ても、怒っているようには見えません。
やっぱり、ふわりと微笑んでいる雰囲気です。
「山笑ふ」う~ん♪ 実感♪

投稿: Amice | 2005/03/16 21:52

Amiceさん、そう、「山笑う」って、楽しい表現です。冬の厳しさに耐えて、暖かくなってきて、つい、身も心も緩むような感じ、体の芯から暖かさに笑いが込み上げてくるような感じが表現されてます。
「山怒る」なんて言葉があったら、怖いですね。あるとしたら、一体、いつ頃の表現なのでしょう。台風の季節かな。
日本語の表現、探れば探るほど、奥が深く、楽しいです。


投稿: 弥一 | 2005/03/17 03:43

弥一さん、今晩は。
〈言葉が〈季語〉になるには
それなりの名句が必要です。〉
と云うことをどこかで読んだことがあります。

投稿: 赤とんぼ。 | 2005/03/18 20:06

赤とんぼさん、コメント、ありがとう。
明確な決まりがあるかどうかは別として、俳句の世界も現実の世界と相関しているということでしょうか。花粉症にしても現実の世界で(困ったことだけど)悲惨なもの、日常的な光景となり、多くの人の関心事となり、俳句にも詠まれていく。大量に読まれるうちには名句も生れると期待していいのでしょうね。
季語は次々と生れていくもののようですね。新しい季語の誕生に立ち会えたりしたら、運がいいと思えるかもしれない。

投稿: 弥一 | 2005/03/19 04:25

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