春菊徒然
今日の表題に「春菊」を選んだのは、単純明快。今年に入って、久しく我慢していた外食をほんの少し解禁し、タクシーでの営業の日の夜中過ぎ、時にはそろそろ明けようかという刻限に、何処かの蕎麦屋さんに入っている。
というか、それが楽しみで営業しているようなもの。7年続く不況に、一昨年から外食は一切、控えてきた。昨年春からは書店に立ち寄ることも止め、本は全く買っていない。今年に入ってからは新聞の購読も止めた。美術館巡りも数年前から止めている。ひたすら耐乏生活である。ここまで来ると、自虐的な気分になり、もっと自分を虐めてやれ、なんて思ってみたり。
が、そこはそれ辛抱のならない小生なので、一月の半ば頃だったか、夜半過ぎ、あまりにお客さんの姿が見つからなくて、懐具合が淋しく、せめてお腹だけでも温めてやろうと、久々に蕎麦屋さんに入ったのである。大好きなラーメン屋さんは、まだ、厳禁である。悲しい!
蕎麦屋さんとはいいながら、小生は、ソバよりウドンを注文することが多い。なんとなく腹持ちがいいような気がするからだ。ウドンは、たぬき。そこに玉子やらコロッケなどを載せる。
が、健康のこと、消化のよさを考えて、ソバを選ぶことも多くなっている。ただ、ソバを注文した場合でも、たぬきであり、卵とコロッケを載せる(卵と玉子とは、同じ? 違う?)。
ところが、である。一月は、たぬき一筋だったのだけれど、今月に入ってからは春菊ソバを頼むようになった。
自分でも変化の理由が分からない。野菜不足の小生なので(日頃、野菜は一切、食べない。目の前にあれば食べるけれど、スーパーでは野菜や果物のコーナーは素通りである)、本能が野菜を求め、春菊ソバを選択することになっているのか。
それでも、載せるのは卵(玉子)とコロッケである。
実は、である。一昨日だったか、2月の季語例を見ていたら、「雛菊、菠薐草(ほうれんそう)、蕗の薹(ふきのとう)、水菜、 海苔」と並んで、「春菊」があるではないか。
おお、小生は、日頃の季語随筆日記で在宅の日は必ず季語例表を眺めるので、無意識の内に2月、季語、春菊、春菊ソバと連想が働いたのか、小生もここまで来たら大したもんじゃないか、などと一人悦に入ってみたりしたが、もちろん、冗談であって、蕎麦屋さんに入るとき、大抵は注文する品は決めているのに、つい、店頭のガラス張りの商品メニュー写真(値段表)を見てしまう。
ああ、うどんもいいけど、そばもいい。納豆定食もいいな、味噌汁も啜ってみたいし、海老天もいいし、それとも粋に盛り蕎麦とかザル蕎麦もいいかも、いや、カロリーのことを考えたら素うどんが最適じゃないか、でも、やっぱり月見うどんの風情は捨てがたい、いや、日頃、たぬきばっかり食べている、罪滅ぼしの意味もあるし、八方美人振りを発揮して、ここは思い切ってキツネソバもありかも…、ありゃ、よく見たら味噌煮込みうどんがあるじゃないか、今までオレは何を見ていたんだ、鍋が恋しい季節じゃないか、でもなー、健康が一番だよな、我輩に何が足りないって、野菜なんだから、山菜ソバが相応しいんじゃないか、ああ、いや、その、カレーも食べたいし、カレーうどんにしようか、などと、迷った挙げ句、何のことはないタヌキうどんかソバを選ぶのである。
小生、なかなかの保守派であり、頑ななのである。融通性がなく、変化に対応できず、動きが鈍いとも世間では言うらしいけど。
が、過日、メニューの中に春菊があることに気付いた、目がそちらに向いた…、そう、季語例にあったからなのかしれない。
それにしても、何故、春菊ソバは…じゃない、春菊は二月の季語例に入っているのだろう。
この点は、あまり考える必要もなかった。「野菜で春を感じさせてくれるといえば、やっぱり「春菊」ですね」と言われても、野菜にも疎い小生、ピンとは来ないが、「文字通り、春に菊に似た花を咲かせるので「春菊」と名づけられました」というのは、素直に納得である(引用元のアドレス:http://www.asanoya.co.jp/essay/aji/123aji/index.htm)。
「鍋物におひたしにと、和風料理に大活躍の春菊は、匂いまで菊の花に似た独特な香りを持っているため、人によっては好き嫌いがはっきり分かれる食材かもしれません」というが、思い返してみると、野菜嫌いな小生だが、白菜や春菊が鍋物に入れられても嫌だなと感じることは少なかった。小生、結構、春菊とは相性がいいのかもしれない。春菊のような人が現れていたら、一生を共にする伴侶となれたかもしれない…が、野菜では、如何ともし難い。遺憾である。
引用した頁(http://www.asanoya.co.jp/essay/aji/123aji/index.htm)には、「あなたがお肌をいつまでも美しく保ちたいと考えているなら、春菊は嫌いだなんて言ってられない大切な野菜なんですよ。春菊には、年齢、原因を問わず、あらゆる肌荒れを改善してくれる心強い薬効成分を4つも持っているからなのです」とあった上で、以下、春菊の栄養上のメリットが列挙されている。
別のサイトでは、「キク科で地中海沿岸が原産といわれています。日本には、15世紀ごろに入ってきています。ヨーロッパでは、花の観賞用に栽培されていますが、中国・日本・東南アジアでは食用として栽培されています」と教えてくれる。
この春菊、「血栓を予防する野菜 」としても優れているが、集中のホウレンソウも挙げられている。このほうれん草(菠薐草)も、二月の季語例に入っているようである。
尚、春菊の「別名⇒蒿(しゅんぎく)、高麗菊(こうらいぎく)、菊菜(きくな)」だとか。
また、「菊科の植物は23000種もあり、植物学上最大の科ですが、有用植物は少なく、春菊、蕗、牛蒡、ヒマワリ(種を飼料、搾油)、紅花(染料)、菊芋(イヌリン=砂糖)等のみ」なのだとか(「10月の西荻の花」より引用)。
春菊の織り込まれた句も、結構、ネットでも見つかる。「俳句学習の要点」という勉強になるサイトでは、「夕支度春菊摘んで胡麻摺って」(時彦)が見つかった。
「右脳俳句パソコン句会 3月例会(2)」では、直接、春菊が織り込まれているわけではないが、「朱塗盆春の野菜をてんこもり」というのは、「春の野菜と言われてどんな野菜なのかと想像をふくらます。春菊、茎立、キャベツなどか。「てんこもり」が面白い」のである。
「春菊」でネット検索すると目立つのが、作家(漫画家? 女優? 歌手?)の内田春菊である。小生も彼女の本は『やられ女の言い分』や、『口だって穴のうち』、『ファザーファッカー』など何冊か読んだことがある。簡単な書評エッセイも書いたことがある(「口だって穴のうち/内田春菊著『やられ女の言い分』の周辺」)。
タイトルがえぐいので(内容もそうだったりするが)、つい好奇心で選んでしまうが、ちゃんと最後まで退屈させずに読ませるのだから、筆力があるのだろう。上記の本を読んだ頃は、漫画の本は(立ち読み以外は)読んだことがないのだが、とうとう、漫画の本も買って読んだものだった。
いずれにしても、内田春菊は、小生の三大内田の一人なのである(残りの二人は、内田恭子と内田康夫である)。
内田春菊の最新作は、『あなたも妊婦写真を撮ろう―『私たちは繁殖している』うらばなし』(PARCO出版)なのだろうか。
ネット検索しながら、春菊の花の画像を探していたが、なかなか見つからない(食べる葉っぱの画像は既に示した)。花として平凡だったり、やや華やかさに欠けるということなのか、それとも食べるほうにばかり神経が向いているからか、春菊の画像が見つからない。
さすがに、内田春菊さんに代わって登場していただくのも、筋が違うだろうし。
やっと、とりあえず見つけたのが、「雑記録帳 11 2004・4・1日より 老いの記録より 新しい家族と懐かしい人への想い」というサイトにて。
確かに、見慣れていたりして、敢えて紹介するのも、殊更なのかもしれない。
仕方ないので、「春菊とささみのにんにくあえ」の頁を見て、気を紛わせておこうか。
春菊の目立ちすぎてる鍋はやだ
春菊の花の行方が気に懸かる
春菊と聞いて思うは葉か作家か
春菊が慕わしく思う歳となり
春菊に我が滋養となるを祈る
[以下の句は、あるサイトに今朝、小生が寄せた句の数々。そこでは、返しの句も詠める。]
春来いと背伸びするのか冬の花
余寒にも笑みほころばす冬の花
春来いと満面の笑み冬の花
凍てる地を笑みで満たさん冬の花
冬の日も戯れに暮れる仔猫かも
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