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2005/02/27

冴返る(さえかえる)

s-DSC01387「冴返る」は、2月の季語である。2月も残すところ今日を含めても二日。季語例が少ないといっても、言及していない季語が少なからずある。似たような意味合いかどうかは、分からないが、似た印象ないし語感を抱かせる、同じ2月の季語に「沍返る(いてかえる)」がある。
 それぞれの意味合いを説明しておくと、「冴返る」は、「春先に少し暖かくなってきたと思ったら、また急に寒さがぶり返すこと」で、「冴えると言う言葉には、光、音、色が澄むと云う意味を含んでいて、寒さでも冷えを伴う冬の季語になっている」という([ 花鳥風月 ]より)。
 既に、「月冴ゆる」や、「冴ゆる」は、先月、冬(一月)の季語として採り上げている。
 例えば、夏目漱石には、「人に死し鶴に生れて冴返る」という句がある(「漱石俳句カルタ」より)。

 一方、「沍返る(いてかえる)」は、2月の季語例に載っていたが、「沍返る」でネット検索しても、浮かび上がったのは4件だけ。
 トップには、「新潮社  川端康成 三島由紀夫往復書簡
」という頁が登場する。
 平岡公威(つまり三島由紀夫)から川端康成への手紙の中で、「都もやがて修羅の衢、沍返る寒さに都の梅は咲くかと思へばしぼみながら、春の魁らしい新鮮さを失つてゆきます。」などと書かれている。
 さらに続けて、「きのふ青山の古本屋で「雪国」をみつけもとめてまゐりました」とも。
 葉書の日付は、「昭和二十年三月十六日付」である。
 文中、「都もやがて修羅の衢」というくだりがあるが、東京大空襲があったのは、まずは、3月10日で、そのときは、江東区・墨田区・台東区などの下町地区にアメリカ軍により、波状絨毯爆撃やナパーム製高性能焼夷弾が見舞われた。(旧)日本軍による重慶への無差別爆撃や、ピカソのゲルニカなど児戯と思われるような陰惨な攻撃だったと言われる。
 アメリカは、建国の最初から一貫して、圧倒的な軍事力・技術力・戦略を以って、安全圏(高所などから)にあって抵抗力のない相手を叩く歴史を有している。長崎や広島への原爆投下も、アメリカにとって、そのほんの一幕に過ぎないのだろう。
 さて、平岡公威(つまり三島由紀夫)の当時、居住していた「東京渋谷大山」は、山の手と見なしていいのかどうか分からないが、少なくとも下町ではなく、3月10日の東京大空襲の洗礼は受けていなかったのだろう。それでも、情報は、すぐさま耳に入ったことだろうが。
 同上のサイトによると、彼、平岡は、「五月五日より勤労動員に出動を命ぜられ、只今、「神奈川県、高座郡、大和局気付高座廠、第五工員寄宿舎、東大法斈部、第一中隊」方に起居してをります」ということで、やっていることというと、「こちらで携はつてゐる仕事は、大学相手の寮内の図書室掛りで、物を書く暇にも存分に恵まれ、感謝しつゝその日を送つてをります。その傍ら寮内の回覧雑誌の編輯に従事したりして、仕事は好きな仕事ばかりで、今の生活を幸福なものに思つてをります」ということで、戦争の実感は、どれほどのものだったのだろうか。

 というわけで、「沍返る(いてかえる)」の事例はネットでは少ないようだ。但し、念のため、表記が違うのなら、事例が見つかるかもと、「凍て返る」でネット検索したが、やはり網に多数が懸かるというわけにはいかなかった。
 ただ、「古代裂つれづれ草」の中の、「○ 冴えかえる ○  398」という頁に、「冴返る」の説明と同時に、「凍て返る」に言及され、「いったんゆるんだ地上の凍ても、ふたたびもとに戻るので、「凍て返る」とも、また、また寒が戻るという感じで「寒もどり」ともいう」とあった。
 ちなみに、この「古代裂つれづれ草」のサイト主である、松本芒風こと松本一郎氏は、「2003年11月7日」に亡くなられているという。享年81歳だとか。
 さすがに、説明の中に、「冴え返る、春の寒さに降る雨も、暮れていつしか雪となり、上野の鐘の音も凍る細き流れのいく曲がり、末は田川へ入谷村・・・」という「清元、三千歳(みちとせ)の出だしの有名な文句」が引用されていたりして、小生などには決して真似の出来ないことだと感じ入った。
 上掲の頁(「冴えかえる」)を覗く労を惜しまれなかった方は、「冴え返る湯呑み茶碗のうすみどり」という一句が添えられてあることに気付かれただろう。

 さて、今日の表題を「冴返る(さえかえる)」にしたのは、一つには、2月の季語で言及していない季語を少しでも知っておきたいということもあるが、同時に、24日深夜、小生が居住する東京は大田区にも牡丹雪が降ったからである。
 夜半過ぎ、その日の季語随筆日記(月影を追って)を書き終えて、野暮用があって、部屋の外に出たら、駐輪場の屋根などが白くなっている。透かして屋根の色が分かるほどだから、積雪が何センチというほどのものではないが、東京では珍しい雪景色なので、小生は、大袈裟に言えば息を呑むような感動など覚えたりしたのだった。
 慌てて、部屋に戻り、デジカメを持ち出し、数枚の写真を撮った。夜だと、我輩の腕前ではうまく撮影できないが、とりあえず、一枚だけ、我が部屋のベランダから撮った画像を冒頭に掲げておいた。

 そんなこともあって、寒の戻りということで、「冴返る(さえかえる)」を表題に選んだのだが、実は他にもこじつけめいた理由がある。
 それは、「H2A打ち上げ成功」というニュースである。このニュースは、昨日の季語随筆「公魚(わかさぎ)」を書いている最中に日本全国(世界中にと言いたいけれど、ちと、無理か)に配信されていたようだ。
 土曜日(26日)は、徹夜勤務明けに会社で所用があったりして、生活のリズムが完全に崩れ、テレビを見る気力など、まるで失せていて、あーあ、こうしてロッキングチェアーでグターとしている間に、打ち上げの瞬間を迎えているんだろうな。見たいな。成功したのかな。もしかして、また、失敗したのかな、と、気を揉んでいたのだった。
 で、小生が成功のニュースをテレビで確認したのは、夜半近くの、本日最後のニュースにおいてだった。
 そう、「公魚(わかさぎ)」の稿を書き上げたあと、一人、スーパーで買ってきたピザで誕生日の祝いをして、そのあと、また、ロッキングチェアーで寝入ってしまったのだ。生活習慣が狂うと、乱れが戻るのに二日は要する。会社の都合だとはいえ、辛い。
 土曜日の夜半過ぎ、つまり、日付の上で日曜日(27日)となったすぐにも、季語随筆を書いて、この成功のニュースを扱いたかったが、グダグダしている間に未明となり、書く機会を逸してしまったのだった。
(その代わり、「今日も走るぞ! ここは何処?篇」を書き上げた。
 小説(物語)だと、特に題材がタクシーモノだったりすれば尚のこと、ネット検索で数十箇所以上のサイトを調べまくり読み漁る必要もないし、第一、楽しく書ける、というわけなのである。
 物語を書き終え、気が付いたら、外は明るくなっていたっけ。

「H2A打ち上げ成功 7号機、信頼回復の一歩」の記事は、上でリンクさせておいたが、こうしたニュースは、日を経ないで削除されるので、「H2Aロケット7号機打ち上げ成功 衛星を分離 (朝日新聞)」と題されたサイトから、当該の記事の一部(?)を転記させてもらう。
「国産大型ロケット「H2A」7号機が26日、鹿児島県・種子島の宇宙航空研究開発機構種子島宇宙センターから打ち上げられた。03年11月の失敗から1年3カ月ぶりの再開で、気象衛星「ひまわり5号」の後継となる運輸多目的衛星新1号(MTSAT-1R)を予定通り分離し、打ち上げは成功した。揺らいでいた信頼をつなぎ留め、停滞していた日本の宇宙開発が再び動き出す」という。
 さらに、「打ち上げは午後5時9分の予定だったが、地上との通信系統に異常が生じたため、午後4時すぎに作業が一時中断。午後6時25分に繰り下げられた。2分7秒後に大型固体補助ロケット(SRB)の切り離しに成功。40分2秒後に衛星を分離した。10日近くかけて赤道上約3万6000キロを地球の自転と一緒に周回する静止軌道に乗る」とある。
 午後6時25分の打ち上げ! ああ、あの土曜日の朝に会社で野暮用がなかったら、打ち上げの際の緊迫感を夕方のニュースでじっくり生で味わえたのに。味わいたかったのに。
 
 ん? で、このニュースと、季語の「冴返る(さえかえる)」と、どういう関係があるかって? 
 まあ、こじつけなのである。写真で言えば、ポジとネガの関係というべきか。
 季語(俳句の世界)では、「冴返る(さえかえる)」は寒の戻りだが、打ち上げ成功のニュースは、寒々としていた日本の宇宙開発や宇宙ロケット産業、気象観測その他関連する業界に、ようやく春が蘇ったという構図だろうか。
 それにしても、〈H2Aロケット〉というのは、「地上から約3万6000キロの静止軌道に重さ2トン級の人工衛星を打ち上げる能力をもつ国産の主力ロケット。直径4メートル、全長は17階建てビルに相当する53メートル」だという。
 何処かの高層ビルを丸ごと打ち上げるようなものだ。
 宇宙開発には、さまざまな問題点があることは承知している。その上で、単純素朴に感動したのだった。
 念のため、打ち上げのために要する費用(予算)は別にして、例えば、有人宇宙ロケットであるスペースシャトルを「宇宙に運ぶエネルギーは15万eu」という試算があるようである(「HORIBA シリーズ環境単位【スペースシャトル】」より)。
 このサイトによると、「宇宙開発事業団によると、スペースシャトルの液体燃料タンク内の液体酸素と液体水素の反応によって生ずるエネルギー(発熱量)は、酸素16g当り68kcalほどで、タンク内の酸素の量(617t)によって計算しますと、約27億kcalになります。さらに、固体燃料のエネルギー(発熱量)が液体燃料の約10分の1ありますので、スペースシャトルが軌道到達するまでにかかるエネルギーは合わせて30億kcalほどになります」という。
 さらに、「これを環境単位(eu)であらわすと150万eu。150万人分の食料エネルギーにあたります。なお、地球の重力に対してシャトルを300kmの上空まで運ぶ位置エネルギー計算によると約1/10の15万euとなります。現在のロケットエンジンの燃焼効率は、約10%程度であることが分かります。なお、乗用車のエネルギー効率が15~20%、SL(蒸気機関車)の効率が5~8%と言われています」というのである。
 150万人分の食料エネルギー(!)と言われると、誰しも何かしら感じるものがあるのではなかろうか。
 参考までに、MTSAT-1R/H-IIAロケット7号機打ち上げの「インターネットライブ中継」を楽しめる(但し、当然ながら、今は画像のみ。『© RSC/JAXA』)を覗いてみよう。
 あるいは、「宇宙航空研究開発機構|JAXA」を覗くのもいいだろう。

 冴返る夜空を透かし春を待つ
 人なれど鶴の孤影と冴返る
 ドアを開け不意打つ雪に冴返る
 夜更かしのお茶の香りに冴返る
 三寒と四温の間行き暮れる
 凍て返る恋の行方に惑うかも
 凍て返るあとのないのが恋なのか
 恋しくて窓外見ても凍てるのみ
 キーを打つ指先止まり冴返る
 

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コメント

お誕生日おめでとうございます。昨日だったんですね(^.^)
「冴え返る」の語感が好きです。「凍て返る」じゃ寒すぎて(笑)

そうそう「今日も走るぞ!」楽しみにしてますねん♪

投稿: ちゃり | 2005/02/27 23:33

きゃ、ちゃりさん、こんにちは。
メッセージ、ありがとう。
御蔭で一気に頭が冴えました(と思いたい)。
「今日も走るぞ!」も、頑張りますね。
 小生も、ちゃりさんサイト、在宅の日は、日に二度はお邪魔してますよ。
 田舎の家には、そろそろ庭に梅が咲いている頃かな。

 梅が香に春の日々を偲ばれり


投稿: 弥一 | 2005/02/28 01:23

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