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2005/02/16

雪代水

 2月の季語には、言葉の上では、似たような意味合いを持っているのではないかと思われる季語が並んでいる。転記しておくと、「雪解、雪しろ、雪崩、残雪、雪間、凍解、氷解、薄氷」などである。いずれも、降雪の時期の峠も越えて積雪が溶け始めている光景を示唆している。
 最後の季語は薄氷を踏む思いでついでに転記したが、これも、初冬だったりしたら、寒さが募り、ふと気が付くと水溜りや池の端っこなどに薄く凍り付いてきて、いよいよの寒波の到来に身を縮める思いを抱かせるのが、寒さのピークがなんとか通り過ぎたかなと思うと、ついこの間までは氷も分厚くて、その上を歩いても、氷の表面に擦り傷の一つもつけられなかったのが、あれ、氷の下に水じゃないか、溶け始めている? 氷が薄くなっているのかとささやかな喜びを覚えたりするようになる。
 尤も、冬の到来を告げるかのような水溜りの薄氷も、大人なら身を竦めるばかりでも、子供だったら、麦踏みならぬ氷踏みというか、薄氷を長靴などで踏みつけて、バリバリ割って楽しんだりする、楽しみの一つにしか過ぎないのだろうが。

 念のため、自分のためにも、俳句の季語の上でのそれぞれの意味を「春の季語(自然編-種類順)」に依りつつ示しておこう。
「雪解(ゆきどけ)」は、文字通り「春、積雪がとけること」で、類語に上記したように「雪消 雪解雫 雪解風 雪水」などがあるようだ。
「凍解」は、「早春、凍結していた地面がゆるんでくること」で、「凍ゆるむ」が近い意味を持つらしい。
「氷解く」は、「張りつめていた川や湖の氷が解け出すこと」で、類義語に「解氷 浮氷」があるとか。
「雪崩」は、「山や屋根の積雪がゆるみ、滑り落ちるもの」というが、小生、屋根の積雪が溶け始め滑り落ちるのも「雪崩」と呼ぶとは初めて知った。屋根から雪崩! なんだか、豪快だが、何か他に表現がありそうな気がするのだが。
「雪間」は「雪が解け、ところどころに土が見える隙間」で、「雪のひま」とも言うらしい。
「斑雪」は、「まだらに積もった春の雪。あるいは解け残った雪」で、「はだら はだれ雪 斑雪野」などの類義語があるとか。
 呆れるのは「残る雪」で、意味は「日の当たらない物陰などの残雪」で、「残雪 日陰雪 陰雪」という類義語があるのはいいのだが、「残雪」という言葉は、使うべき場所ないし光景・情景がかなり限定されているというのは、なんだか、言葉の有難味よりも窮屈ささえ覚えたりする。
「残る氷 春の氷」などを類義語に持つ「薄氷」は、ちょっと予想外で驚いた。小生が勝手に思い込んでいた、それまで厚かった氷が春になり溶けて薄くなった氷のことではなく、「春になってからうっすらと張る氷」なのだとか。油断も隙もあったもんじゃないのだ。
 余談だが、「雪解富士」という季語があって、以前は夏の季語だったが、地球温暖化の影響なのか、春の季語に変更されたとか。「富士の雪解」とも表記されることがあるようだ。
 雪解けは春の季語だというが、富山は立山などだと平野部では真夏の時期を迎えても、まだ、雪がタップリと残っていて、中には越冬ならぬ越夏する雪もある。
 三千メートル級の高山などで暮らす方々などは、雪解けは真夏の、それこそ、七月の終わりか八月の光景を表現する言葉として使いたくなったりするのではなかろうか。

 さて、小生には馴染みのない言葉「雪代(ゆきしろ)」の意味が気になる。
「山の雪が解けて一気に川や海、野原や田(に)流れ出る」という意味で、「雪代水 雪濁 雪汁 春出水」といった類義語があるとか。「雪代水」はともかく、「雪汁」というのは、語感的にも表記的にも好きになれない。「雪」や「汁」それぞれが単独に使われるなら状況によっては情緒や雰囲気も醸し出されて具合も良かったりするだろうが、「雪」と「汁」がくっ付くと、なんだか、お汁(つゆ)に鼻水でも垂れて濁っているような不具合を覚えてしまうのだが。
 上掲の「春の季語 自然編(種類順)」の表の中にあったのかどうか分からなかったが、「雪解水(ゆきげみず)」という春の季語もあるようだ。
 まだ他にも類似ないし近縁の言葉があるようだが、また、触れる機会があるだろう。何しろ暦の上では立春だといっても、現実には冬の真っ最中で、東京もあと、二度か三度気温が低ければ雪になっていたかもしれないような、氷雨とつい表現したくなる冷たい雨が降っている。春はまだまだこれからであり、また、実際、春になってはいないのである。
「春泥」や「水温む」「山笑う」「笹起きる」などは、追々、採り上げていくことにしたい。

 さて、やっと本題である。こうした根雪も溶け出すような頃合いの自然風物の微妙な変化を表現する言葉は、多くは、辛い冬も何とか乗り越えて春がやってきたなー、という感懐を表現するものが大半である。あーあ、冬が終わっちゃった、雪が溶けちゃうよー、と思うのは雪山や雪遊びの好きな若者や子供ばかりなのだろう。あるいは雪女郎さんも、雪が溶けてしまったら、夏の時期はどうしておられるのだろうか。渡り鳥のように何処かシベリアでも旅されるのか、それとも、夏でも溶けない万年雪か氷室で冬眠ならぬ夏眠されておられるのか。
 さて、そんな他愛もない感懐ばかりを雪解けや雪代水などに覚えておられるような時代ではなくなったようだ(ここからが、ホントの本題である)。

 実は、「雪代水」を表題に選んだのは、あるいは「凍解、氷解」でも同じことなのだが、今日(2005年2月16日)が京都議定書の発効日だからである。
 念のために注記しておくと、「京都議定書とは、「気候変動枠組条約第3回締結国会議(COP3)」で採択された、先進国の温室効果ガス排出量について法的拘束力のある各国の数値約束を定めた議定書のこと。この会議が1997年12月に京都で開催されたことからこう呼ばれる」のである(議定書の詳細などは上記リンク先参照のこと)。
 小池百合子環境大臣は、昨夜のラジオを聴いていたら、京都議定書の発効は偉大な成果だが、人類にとってはまだ、小さな一歩に過ぎない、これから為されるべき課題は山ほどある、といった主旨の発言をされていたっけ。
 さて、京都議定書と「雪代水」(雪解け)とどう、関係するか。
 小生は、「京都議定書可決に絡んで」など、エネルギー問題関連のコラムもこれまで幾たびとなく書いてきたが、そんな中、不気味なのは、例えば、地球温暖化により南極の氷の溶ける速度が以前より格段に早くなっているとか、「南極や北極の氷だけではなく、ヒマラヤやアルプス、アラスカなどの氷河も毎年かなりのスピードで溶け出してい」るという光景である。
 数年前、小生は、「広大なロシアのツンドラ地帯(永久凍土)の氷が溶け出している。それに伴い、封印された形の膨大な二酸化炭素やメタンガスが大気に放出され始めているという」として、「ミファイル・イ・ブディコ博士(ロシア国立水文学研究所気候変化研究部長:平成10年当時?)による「気候温暖化のゆくえ」」というサイトを紹介したことがある。
 地球温暖化が人類の営為の影響なのか、寒冷化と温暖化を繰り返してきた地球環境のサイクルの、その温暖化の時期に今が当たっているだけなのかは、別として、温暖化している事実自体は否定できないようだ。
 同時に、過去の温暖化の時期と違うのは、人類の人口爆発が始まっていて、人類は過去とは比較にならないほど広範な地域に、それこそ海辺・浜辺・臨海部に多数が犇き合うように暮らすようになっているという現実なのである。
 とにかく、温暖化という現実があることは否めない。それが人類の加速度を増す産業活動の直接の結果なのかどうかは、議論の余地があるのだとしても。
 温暖化の影響というのは、南極の氷や永久凍土が溶け出すとか、平均気温が数度上昇する、よって海面が数メートル上昇するということより、大気の、つまりは気象の変化・変動・流動・活動が活発化する、というより、過激になるほうが取りあえずは怖いような気がする。
 昨年の日本の秋がまさにその予兆で、風速五十メートル以上の台風が立て続けに襲来するとか、夏に思いっきり熱波に見舞われる(逆に猛烈な寒波に覆われてしまう)という気象変動の影響をモロに受けてしまいそうである。
 アメリカが京都議定書から離脱したとか、高度成長真っ最中の中国が途上国扱いで環境上の措置の義務を免除されているとか、そもそも議定書の内容にも問題があるとか、課題は山積みだとしても、日本は憲法改正問題でことを急ぐより、何処の国よりも環境問題に率先して取り組んだ方が世界からの評価が高まるのではないか。
 とにもかくにも、環境問題にこれまで以上に懸命に取り組むほうが、喫緊のテーマだと思うのだが。

 春の雪解けは、心も緩むような、どこかうきうきするような感じが伴うが、本来は永久に凍っているはずのものが溶け出すというのは、ただただ怖いような気がする。

 雪解けを畏怖の念で見る温暖化
 雪解けの田圃もかくや我が道よ
 薄氷を踏む思いでの仕事かも
 地獄極楽板一枚背中合わせ

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コメント

屋根から雪崩!ドイツ語で其々の語、DACHとLAWINE生じてDACHLAWINE。スキー場のリフト小屋やホテル駐車場の注意書きだけでなく、高所から落ちる雪崩に被害が多い。用心の義務あり。

投稿: pfaelzerwein | 2005/02/16 20:29

pfaelzerweinさん、確かに屋根からの落雪は危ない。田舎(富山)でも、屋根に雪が積もって居る時は、玄関への出入りの際、氷柱の落下、屋根の雪の滑り落ちに注意したものでした。まして、積雪の凄いところは尚更ですね。ただ、(日本において)名称が屋根から落下する雪も雪崩と称することに、ちょっと驚いただけです。

投稿: 弥一 | 2005/02/17 01:34

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