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2005/01/13

冴ゆる


s-DSC01288 表題を選ぶため、1月の季語リストを眺める。風物にも疎い小生には、字面を眺めてみても、何を意味するのか分からない言葉がたくさん並んでいる。 
 というより、多少は知っている言葉である、仮に聞いたことがある、どこかで目にしたことのある言葉であっても、それはそんな風習があった、遠い昔はそういえばそんなこともあった、テレビで見聞きした、ラジオで話だけは聞いたことがある、雑誌やその手の本で関連する記事を読んだりして全く知らないというわけではない、といった言葉が多い。
 だから、多くの言葉については実感や実体験が伴わないわけで、季語を学び季語を織り込んだ句を作ろうと思っても、下手すると、今もそうした風習が残っている方、あるいは記憶に鮮明にそうした風景を刻み込んでいるという方からすると、変だぞ、無理やりだぞ、作り事めいてるな、と感じられる怖れがある。
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 だったら、作るな、ただ、季語の勉強だけしていれば、となるが、それでは、せっかく今まで残っている季語、つまりは思い出や記憶・記録の中の風物が廃れていく。
 先人の句業を味わう、鑑賞するだけでも、それなりの学びにはなるが、やはり、小生としては、なんとしても自分なりに句作を試みたいのである。そうすることで、心に幾分なりとも古(いにしえ)の風景や、そうした風景の中にいた昔の人々の心情に触れられる、ほんの少しは近づける…ような気がするのである。

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 さて、今日、なんとなく季語例を眺めていたら、表題に選んだ「冴ゆる」が目に付いた。「さゆる」と読む。最近、新作の映画(北の零年)が評判でテレビやラジオに(CMにも)出ることが頻繁となっている、吉永小百合の「さゆり」とは縁がなさそうだろうとは、小生にも分かる。
 そこで「冴ゆる 季語」でネット検索してみる。
 すると、筆頭に、「十七文字の世界」という頁(サイト)が登場。その頁に、「冴ゆ=体感温度だけではなく視覚、聴覚などでも感じる温度の低さ」という説明を見つけた。実は、この説明で、「冴ゆる」を本日の日記の表題にすると決めたのである。実に単純というか、分かりやすい決定経過だ。
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 ここには、「薄暗き御堂(みどう)に冴ゆるイコンの金」や「詩碑に立てば千曲の水の音冴ゆる」という句が載っている。共にサイト主の虹玉の句か。
 さらに検索の結果を見ていくと、「月冴ゆる渦巻く黄泉にゐたりしが」(征夫)が見つかったが、次のサイト(銀座俳句道場)は、兼題の一つが「冴ゆ」ということで、「冴ゆる」の織り込まれた句が少なからず見つけることが出来た。
 その冒頭には、「ただ冴ゆる柩の前の酒の瓶」(谷子)が載っている。ほかに、「星冴ゆる淋しがりやの母のこと」(だりあ)、「声冴ゆる大岩かげの女風呂」(姥懐)、「冴ゆる夜のポットの赤き花模様」(?)など、いろいろと。
 が、これらの句を見てみると、どれも視覚的な角度から「冴ゆ(る)」を使っている。「冴ゆ=体感温度だけではなく視覚、聴覚などでも感じる温度の低さ」という説明が気に入って表題に選んだ小生としては、句の良し悪しはともかく、今一つ、ピンと来ない。
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「川面暗しキャチボールの声冴ゆる」(弘子)などは、冬の日、暮れなずんできたのだろうか、吐く息が白いような川縁で何か物思いにでも耽っていたのか、散歩でもしていたのか、歩いていたら、姿は見えない何処かから、あるいは普通なら歓声であっても聞えるはずのない遠くからキャッチボールに興じる若者の声が、すぐそこで遊んでいるかのように聞えてきたという情景が歌い込まれており、冬の日の音の立っている感じが表現されているようでもある。
 尤も、「秘め事のいくつか星の砂冴ゆる」(?)なんて句の妖しさには負けるが。
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 他にもネット検索の網には、「口中の粉薬苦く星冴ゆる」(平野あや子)や「鬼瓦にらむ北斗の空冴ゆる」(三浦秀水)、「月冴ゆる夕べひとつの星も冴ゆ」(?)などが見つかった。
 更に探していくと、あるサイトで、「琵琶冴えて星落来る臺(うてな)かな」(子規)や「中天に月冴えんとしてかゝる雲」(虚子)が見つかるではないか。
 なるほど、小生は、「冴ゆ(る)」という言葉でネット検索したので、網に掛かった事例が少なかったのだ。とはいっても、なかなかこの「冴ゆ(る)」あるいは「冴える」という言葉は、語感的にも意味的にも、使い出がありそうなのだが、いざ使うとなると、平凡な使い方になり、反って逆効果というか、当たり前の句に収まってしまう怖れがある、諸刃の刃的な言葉でもあるということのようである。
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 さて、季語随筆日記である。日記らしいことを久しぶりに書いておくと、車中では、古矢旬著の『アメリカ 過去と現在の間』(岩波新書)を、自宅では、山田吉郎著『前田夕暮の文学』(夢工房)を読み始めた。
 後者は、小生の好きな歌人・前田夕暮の生涯と文学を概観した本。図書館で見つけて、即、手に取った。失業時代の94年に、図書館通いして、久しぶりに石川啄木の世界に浸ろうとしたら、生憎、彼単独の本が見つからず、石川啄木と前田夕暮の両者が併載されている本を借りる羽目に。
 が、それが幸いした。石川啄木は、広範に知られていると思うし、小生も知っているが、前田夕暮は小生には全くの未知の人だった。けれど、短歌の数々を詠み始めると、一気に魅了され、彼の世界に惹き込まれていった。彼の短歌の魅力が何処にあるのか当時は、分からないまま、今まで知る歌人とは全く違う世界に遊んだ。
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 本書は小生が前田夕暮に出会う二年前の92年に刊行された…、そう、小生を前田夕暮の世界に案内しようとでもいうかのように。
 この本、冊子に近い本なのだが、氏はその後、『前田夕暮研究 受容と創造』(風間書房刊)というかなり浩瀚な本も出されているようである。

 警笛に押されるがごと打ち明ける(恋心を?)
 冴え冴えと星降る夜の遠い道
 冷気吸い頭にツンと冬の夜
 涙さえ敵わぬ北の星の冴え
 カサコソと枯れ葉の鳴って冴ゆる道
 息潜め女湯覗く冴えぬ我(ウソだよ)
 冴えぬともこの道ゆかん一人きり
 指先の踊りの生める我が句かな
 鼻息の荒さに揺れるマスクかも
 風采の上がらぬ我を見遣る月

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コメント

こんにちは。歳時記を見るように日本語の勉強をさせて頂きます。視覚、聴覚などでも感じる温度の低さを云う「冴ゆる」。音の伝達速度で、「立つ」は良く分かります。しかし相対的に分かるだけですから。寧ろ「立って」いなくても、雪に吸い込まれる音と舞う雪は「冴ゆる」です。それが解けて雨だれになると違いますね。季語も古くなって通じなくなっているでしょうが、こうして考えると面白いです。

投稿: pfaelzerwein | 2005/01/13 06:10

「冴ゆる」
音がまず、綺麗ですね。透き通ってる感じがします。
ただ、そこにあるだけで、冷たい空気を感じさせる音です。
黒川伊保子さんによると、サ行は、空気の流れ(つまり風)
を感じさせるさわやかな音。
ヤ行は、障子越しの柔らかな光を感じさせる音。
だそうで。(た、確か。^^;)
両方私好みの音感です。
だから、冴えるよりも冴ゆるのほうが好きです。
いつまででも口の中で繰り返していたいくらい。

字面もいいですね。
ニスイに牙! 触れたら切れそうなほど温度が低いって感じがします。
そして、そして、意味もその通りなんですね…。

弥一さんのお宅は、勉強になります~。
ただ、ページを開いた時には、字の圧力に負けそうになるんですけどね。(笑)

投稿: Amice | 2005/01/14 11:15

pfaelzerweinさん、コメント、ありがとう。勉強になるサイトですね。
リチャード・E・シトーウィック著の『共感覚者の驚くべき日常』(山下篤子訳、草思社刊)という本があります。寒さと湿気のなさとが、普通の人間の感覚をも鋭敏にする。もっと過敏になったら、感覚の錯綜が小生のような常識人にも起きる…かも。
季語は、勉強していて、昔の人の生活が偲ばれるし、季語への感じ方と住む地域とが相関していたりする。
「寧ろ「立って」いなくても、雪に吸い込まれる音と舞う雪は「冴ゆる」です。それが解けて雨だれになると違いますね。」は鋭い指摘。思わず続編を書きたくなる。探究の余地はたっぷりあると感じさせられました。


投稿: やいっち | 2005/01/14 13:01

Amiceさん、コメント、ありがとう。
黒川伊保子氏のことは初耳でした。公式サイトでプロフィールを見て、ますます興味が湧きました。
『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』なんて、面白そう。
谷崎潤一郎の『陰翳礼讚』は、文字通り陰翳ですが、音や匂いも含めての陰翳探究の余地がたっぷりありそう。
 小生のサイトは、自分の好きで書いている。少しは読む方に配慮すべく、表紙には短い文章、続きを読む…の先には、あれこれ情報を詰め込む、というふうに持って行きたいのですが。
 訪れる方が気持ちよく読めるよう、工夫しないといけないですね。

投稿: やいっち | 2005/01/14 13:13

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