お屠蘇と雑煮
お屠蘇(とそ)も雑煮も、日本の大概の人には馴染みのもので、改めて説明するまでもないだろう。
無論、それぞれに一月の季語である。
たとえば、「お屠蘇、雑煮、七草粥の由来」というサイトを覗いてみる。ここには、お屠蘇や雑煮について、簡潔に説明してある(「七草粥」については、後日、改めて採り上げたいので、今回は触れない)。
案の定だが、「お屠蘇のルーツは中国にアリ。唐時代の医者が、流行風邪予防のために作ったのが、おいしいと 流行になったのが最初らしい。」と冒頭にある。日本の風習の多くは中国にルーツがあるが、お屠蘇もその例外ではないわけだ。
が、「それがなぜ、お正月の飲みものになったのか。」
それは、「実は、この医者が住んでいた家の名前が「屠蘇庵」といったそう。屠蘇とは、「鬼気を屠絶し人魂を蘇生させる」ということで、ここから、1年中の邪気を払い、延命長寿を願うために飲む酒となったらしい。」というのである。本当だろうか。
小生の棲息する邸宅は、無精庵というのだが、小生が何か珍発明でもしたら、それは無精と呼ばれるようになるのだろうか。が、小生に何が発明できるだろう。無精を決め込む根性を養うノウハウ。うーむ。どうも、商売になりそうにないし、評判になるとも思えない。
雑煮については、上掲サイトに、「お雑煮はもともと、年神さまに供えた食べ物を、新年1番に汲んだ水と、新年の神聖な火で雑多に煮て食したもの。年神さまと一緒にそれをいただき、1年の無病息災を祈ったらしい。」と説明されている。
水道水ではダメだし、かといってペットボトル入りの水も、中身は新鮮なのだろうけれど、新年一番に汲んだ水とは言い難い。小生などがガキの頃は、家の裏には井戸があり、えいこらせ、とばかりに水を汲み上げていた。が、やがて、田圃で農薬を使ったりするようになり、水道設備が整うようになって井戸は潰されてしまった。
夏など、井戸水でスイカを冷やしたことが懐かしく思い出される。そう、夏は井戸の水はひんやりしているので、果物などを冷やすのに恰好だったのである。尤も、その頃は、冷蔵庫もなかったような気がするが。
先に進みたいが、どうにも、「医者が住んでいた家の名前が「屠蘇庵」といった」という記述が気になってならない。ネットで更に調べてみる。「「お屠蘇(とそ)」のいわれ」というサイトを覗いてみる。
すると、そのサイトには、「お屠蘇は、松の内のお祝い用の薬用酒で、無病長寿を願って飲みます。」と説明した上で、「「屠蘇」の語源は、屠蘇庵という草庵の名前に由来するとも、蘇は悪鬼の名で、屠蘇はその鬼を屠る(ほふる)意味ともいわれています。」とある。
なんとなく、後段の「蘇は悪鬼の名で、屠蘇はその鬼を屠る(ほふる)意味ともいわれています。」というのが、尤もらしい気がする。
やはり、もともとは中国の風習のようで、「奈良時代に日本に伝わり、江戸時代には武家や一般の上流階級にも取り入れられるようになった」とか。お屠蘇は生薬を調合したものをさらに手を加えたもののようで、最後はお酒に入れたのだとか。今では「屠蘇散」という形になっているようだ。
が、大概の人は、お酒でお屠蘇の代用にしているのではなかろうか。小生のような下戸でも、正月には盃で数杯は飲んだものである。
そんなに飲んだわけでもないのに、お屠蘇気分の抜けない小生なのだが(季語随筆を寝正月で始めたせいだろうか)、どうも、お屠蘇のことをもう少し、知りたい気分である。「中医学事始め 読めばわかる 本当の漢方とは 虎ノ門漢方堂店主・城戸克治さんのやさしい漢方の話」なるサイトを覗かせてもらう。
そこには、「三国志演義に確か、華陀(かだ)という名医が関羽を麻酔なしで切開手術する場面があったように記憶していますが、その名医の華陀が十数種類の薬草を調合して、酒に浸して飲んだのが「お屠蘇(とそ)」の始まりといわれています。」と書かれている。
どうも、この文章だと、飲んだのは関羽(患者)なのか、それとも名医の華陀(かだ)なのか、判然としない。患者が飲んだのなら、多少は麻酔の用を成したかもしれないが、医者が飲んだのなら、景気付けに飲んだのだろうか、などと疑心暗鬼に囚われてしまう。一体、どっちだろう。
まあ、それはともかく、「お屠蘇という名前の由来について有名な三つの通説を紹介」してくれている。一つは、屠蘇庵説だが、残りの二つは、上で紹介した「蘇は悪鬼の名で、屠蘇はその鬼を屠る(ほふる)意味ともいわれています。」という説を、より詳しく説明したもののようである。
いずれにしても、「疫病の予防を意味するという説」が有り難いような気がする。お酒を飲むだけでも、天国にも登るような心地がするのは、その名残なのだろうか。
雑煮については、「「お雑煮」日本の食文化を探検」というサイトがユニークであり楽しい。が、惜しむらくは、「Cult3Dによる3D画像」ということで、vierwerをインストールする必要があることである。
少々驚いたのは(驚く必要もないのかもしれないが)、「文化庁企画「お雑煮100選」の実施について(御案内)」などというサイトに遭遇したこと。文化庁はこんなこともやっていたのだ。お雑煮という歴史ある文化を大切にしたいという気持ちの現われなのだろうか。
ちなみに、「募集期間 平成16年12月22日(水)~平成17年1月12日(水)(必着)」とのことなので、応募、まだ間に合うかもしれない。
あるいは、かの岡本太郎の母親であり岡本一平の奥様だったこともあり、且つ作家だった岡本 かの子に、その名も「雑煮」という随筆があることを知った。
とても短い文章だし、波乱に富んだ岡本かの子の、束の間の安らぎの光景の時が垣間見えるようであり、読んでみてもいいのではないだろうか。
雑煮というと、お餅が付き物だが、その餅にしても、地域によって、角もちと丸もちの別があり、具に入れたい魚にしても、サケとブリの別がある。また、お雑煮の汁にしても、すまし圏とみそ圏があったりする。
我が家(富山)は、おすまし系であり、角もちである。丸もちは作るし、食べるけれど、お雑煮となると角もちなのである。ちなみに、味噌汁はミソを使うし、おすましは昆布と鰹節で出汁を取る。そこに醤油を少々加える。
この正月は、事情もあって、お雑煮は自分で作ったが、なかなかの味だった。これならお婿さんに行けそうである(遅きに失したかも)。
雑煮やお屠蘇という言葉(風習、光景)を織り込んだ句をネットで見つけることができた。「殖えてまた減りゆく家族雑煮食ふ」や「次の子も屠蘇を綺麗に干すことよ」など(「季語コレクション A Collection of Season Words」にて)。
またまた、「雑煮食ひなほも不敵不敵しく生きん」という元文部大臣の有馬朗人の作品も見つかった。
あるいは、「朝酒はほどほどにして雑煮食ふ」などという句があったが、酒飲みだったら、雑煮はほどほどにして酒を飲む…などと詠むのではなかろうか(「清水昶の新俳句航海日誌」にて)。
他にも雑煮を詠み込む句は見つかったが、お屠蘇に移ろう。「お屠蘇にて氷の道は忍び足」などという句があったが、どうやら、お屠蘇を飲んで凍て付いた道をおっかなびっくり歩く…という光景のようである。お屠蘇を飲んでお外を歩く、駄洒落を地で行っているような句だ。
「お屠蘇だけでもすぐ酔ふ我」なんて句があった、まるで小生のことを詠んでいるような句だ。分かりやすく、お屠蘇を詠うだけに、オーソドックスに詠んだのだろうか。
今は、お雑煮があるわけじゃなし、お屠蘇など飲んでいるはずもなく、お雑煮やお屠蘇を織り込んだ句を捻る気分には到底なれないのだが、そこはそれ、寝正月気分で駄句を唸っておこう:
お雑煮が喉に詰まって茹ったよ
お屠蘇呑みお外を歩く寝正月
お雑煮とお屠蘇で暮らす寝正月
お雑煮に年の数だけ入れる餅(可能だった昔が懐かしいね)
駅伝に気を奪われて煮すぎたよ
具沢山とはいいながら残り物だ
お屠蘇呑み夢見心地の炬燵かな
お猪口伏せ炬燵の中で交わす足
お雑煮に年の瀬の残りぶち込んだ
正月はお屠蘇と雑煮で明け暮れた
| 固定リンク
« 鳥総松(とぶさまつ) | トップページ | 明珍火箸 »
「季語随筆」カテゴリの記事
- 陽に耐えてじっと雨待つホタルブクロ(2015.06.13)
- 夏の雨(2014.08.19)
- 苧環や風に清楚の花紡ぐ(2014.04.29)
- 鈴虫の終の宿(2012.09.27)
- 我が家の庭も秋模様(2012.09.25)
コメント
こんにちは。
今は病院食でもちゃんと七草粥やおせちがでるんですよね。
今日のお昼が七草粥とメニューに書いてありました。母はちゃんと食べただろうか。お屠蘇はさすがでませんが。
今は福袋も高島屋なんかでは年内に販売してますよね、お正月用品を入れて。
都会から正月の風景がどんどん消えていく気がします。
投稿: oki | 2005/01/07 15:43
> お猪口伏せ炬燵の中で交わす足
(*u_u)ぽ。
普段はあまり飲みませんが(主人と2人で飲んだら、身上潰します!)、
たまに飲む日本酒は、美味しいと思います。
ささ、一杯如何?
投稿: Amice | 2005/01/07 22:52
okiさん
病院のほうが食生活については健康的。小生も入院していた時、体調が良かった。普段の食生活が悲惨だという何よりの証拠だ。
ただ、病院にも依るけど、院内の廊下などの衛生は課題があるところもあるとか。靴のままでの出入りを許しているから。病院へ入る時は必ず靴底を洗い、手洗いを欠かさず、ついでにうがいもさせるようにすると、院内感染予防に役立つと思うけれど。
これは病院だけじゃなく、多くの外来のある学校や役所も同じだ。
正月の風習が消えていく。伝統が大事だと言っていて、消えるのを放っておくのは、本当に伝統や文化を大事には思ってないのだろう。伝統や文化といっても、所詮は一人一人が築きあげるものなのだし。
といいながら、小生も電子レンジ調理品を食べる…、情ない、面目ない。
七草粥、病院ではどのようなものなのだろう。七つの種類の草、入っているのかな。食べてみたいな。
お母様もokiさんも、寒暖の差の激しい冬、ご自愛願います。
投稿: 弥一=無精 | 2005/01/08 20:48
Amiceさん
小生、ゲコなのです。ゲコったって、小生の正体が蛙だ、というわけじゃなく、下戸なのです。
正月やお盆とか、友人に会った時などに、ちょこっと飲みます。盃で三杯で真っ赤だ。
でも、お酒の雰囲気とか、ウイスキーやワインの色、グラスや盃、ボトルなどのある風景が好き。
でも、一番、好きなのは、お酒を飲んで、ちょっと赤くなった女性かな。
頬染めてやがて夢見る桃源郷
投稿: 弥一=無精 | 2005/01/08 20:54