水銀体温計
今時の体温計はどうなのか分からないが、昔の体温計は、細いガラスの管の中に水銀が注入されていて、温度(体温)により水銀が膨張(収縮)することで、体温が測られる仕組みだった。
ちょっとネットで調べてみると、「「「水銀式」と「電子式」の体温計」というサイトに、気になる記述が。つまり、「最近、よく使われている電子体温計ですが「どうも水銀体温計よりも正確でないような気がする」といわれます。」というのである。
小生のように科学技術に疎く、まして最新の技術情報に触れようもないものには、あれ? という記述。昔ながらの水銀体温計より電子体温計のほうが正確なんじゃないの? である。
すると、続く記述に、「JIS規格では、水銀体温計は0.2度、電子体温計では0.4度の誤差までは認められています。」とある。
小生には全く理解できない規格である。新しい器械ほど、厳密な測定が可能なものだと思い込んでいた小生が、頓珍漢ということ?
尤も、「表示温度にバラつきがあるといわれる電子式ですが、時間をかけて測りさえすれば、水銀式でも電子式でも正確さはほとんど変わりません。およそ、5分間測ってもらえば、まず大丈夫です。」とも書いてある。
なるほど。でも、5分間も測っていたっけ。そんな悠長なこと、病院や自宅などでしていただろうか…。
ともかく、直接にはともかく、間接的にはいろんな形で馴染みのある水銀。小生も、遠い昔、小学生の頃だったか、木の化石やヒスイの原石(ホントは違う石だったのかもしれない)などを収集していた頃、学校で、ひょんなことから水銀を、それこそ一滴ほどだが入手したことがある。
机の上に、あるいは時に指先に置くと、それは水滴同様、表面張力で丸く固まったような形となる。
そう、水銀は、文字通り、「25℃で液体の唯一の金族(銀白色)。」なのである。
が、「気体はほぼ完全に単原子、内分泌撹乱作用があるとされている。毒性が強く、蒸気を吸うと神経がおかされる。メチル水銀などの有機水銀はさらに毒性が強く。水俣病などの重大な公害の原因となった。」ことは、知られている(はずである)。
たまたまラジオで原田正純氏へのインタビューの形で水俣の話を聞くことが出来た。といっても、仕事中なので、断片的に聞きかじっただけだが、それでも、改めて水俣での公害、水銀中毒への関心を呼び覚ますには十分な機会となった。
水俣病は、熊本の問題だと勝手に思い込んでいた小生には、特にこれが実は世界的な関わりを持つ問題なのだという指摘に啓発された。
小生は、昨年からサンバのファンになっている。そのサンバの本場というと、サンバファンならずともブラジルだということは知られている。
そのブラジルのアマゾン水系も水銀汚染問題に苦しんでいるという。「アマゾン川の上流にはガリンポという金の採掘場があり、トカチンス川、シングー川、タパジョス川、マディラ川の流域には金鉱が集中しています。熱帯雨林の表土や川底の泥土にわずかに存在する砂金を集め、精錬するのに水銀が使われるため、ガリンペイロとよばれる金採掘者に無機水銀中毒が多発してい」るというのだ。
[「アマゾンの有機水銀中毒 長期微量でも発症」など参照。]
他にもラジオでは、カナダのオンタリオ州やケベック州などで、先住民(ネイティブ・アメリカン)が水銀汚染による健康被害に悩まされている。ラジオで語られていたかどうか覚えていないが、「アフリカのヴィクトリア湖などにおける金採掘」で水銀が大量に流出し、「スロベニアには、かつて世界二位の産出量を誇った水銀鉱山があり、多くの労働者が作業中に水銀を浴びた」という。
また、「ペルーでは、一グラムの金を得るのに四十グラムの水銀を使う。小規模金鉱で年間百トンもの水銀が使用され、深刻な問題となっている。 」という。
そんな中、水俣病としてあれほど騒がれながらも、日本では、新潟水俣病を基に暫定安全基準とされてきた毛髪水銀値五〇ppmを変更していないとか。実際には、それ以下の数値でも「長期に汚染が続けば、慢性型のメチル水銀中毒になる恐れがある」という研究結果が出ているというのに。
話を聞いていて、「この三十年間、医学的に最もミニマムな水銀の影響は何かという議論が、どこまで補償を支払うかという議論にすり替わってきた」という点に印象付けられた。今も、水俣病患者の認定で、過剰に窮屈な基準が適用されて、患者とそうでない方との選り分けが悲劇をも生んでいる。
転記に継ぐ転記で申し訳ないが、さらに、以下の一文も載せておきたい(「水俣学 医師 原田 正純さん 〈上〉 子宮の中は環境 胎盤通した中毒」より):
「水俣病が『公害の原点』と言われるのは、被害の大きさや悲惨さだけではなく、人類が初めて経験したことがあったからです。一つは、水銀を扱う工場での中毒ではなく、工場廃水が海を汚染し、食物連鎖を通じて魚を食べた人間に中毒をもたらしたこと。もう一つは、胎盤を通した中毒、胎児性水俣病の発見です。それは、人類の未来を暗示してもいたのです」
「ハッと気づいたのはカネミ油症事件のときです。自然界にはないか、あっても極めてまれなものに対し、胎盤は赤ちゃんを守り切れないのではないか。生物は長い時間をかけて胎盤が毒を通さないという機能を獲得してきたが、現代は自然界に存在しないものを合成した。生物の歴史の中でたかだか100年は一瞬である。そういうものが体内に入ったら、どう処理するかDNAには刻まれていない。胎児性水俣病の発見は人類の将来の生存にかかわる普遍的な問題で、決して、水俣で起こった気の毒な事件では済まされないものをはらんでいたのです」
「工場廃水が海を汚染し、食物連鎖を通じて魚を食べた人間に中毒をもたらしたこと。」や、「胎盤を通した中毒、胎児性水俣病」に直接関連するわけではないが、「平成15年6月3日に公表した「水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項」について(Q&A) 厚生労働省医薬局食品保健部基準課」は、一読くらいはしてみてもいいだろう。
突然、話が飛ぶようだが、水銀というと、小生、すぐに化粧のことが連想される。確か、一時期、口紅に水銀が使われていたはずだという記憶が脳裏を掠めたのである。調べてみると、ネットでも、敢えて引用はしないが、水銀含有化粧品に触れたサイトが見つかった。
あるいは、「女性はなぜ化粧をするのか?」というサイトには、「そもそも化粧とは歴史的に見て、かなり命がけだったと言える。昔は顔に塗る白粉の原料は水銀や鉛だった。それを塗ることで鉛中毒を起こし、肌は逆に黒ずんでくる上、体調も乱すようになり、ついには死亡する者もいたそうだ。」と記された上で、さらに、「現在の化粧品は、鉛や水銀が原料ではないが、そのほとんどは石油製品だ。」云々とある。この先は、クリックしてサイト先の文章を読んでみて欲しい。
とにかく、「4千年前のエジプトで化粧が始まって以来、女性はまさに命がけで化粧をしてきたのだ。」
あるいは、水銀というと、毛ジラミの特効薬を連想したり、「梅毒治療薬や消毒薬、利尿薬」として使われたことを思い出してしまう。
こんな雑学的知識を貯えたというのも、学生時代に実際に病気に罹患したから…じゃなく、医学(の歴史)の本を読むのが好きだったということ、とりわけ天才的な医学者で錬金術者のパラケルススに関心を一時、持っていたことが大きい。
彼の功績の一つは、「水銀が梅毒の病気の進行を遅らせることを発見したこと」で、「抗生物質が発見されるまで、すなわち20世紀初頭まで梅毒の治療薬には水銀化合物が使われ続けたの」だった。
また、水銀というと、秦の始皇帝を連想する方も多いのではなかろうか。そう、「始皇帝の墓では天下の河川が水銀で描かれているとの伝説」は、兵馬俑の存在同様、あまりに有名である。
とにかく、始皇帝の墓には、以下のような伝説(司馬遷の「史記」に書いてある)があるのだ:
・地下に銅板を敷いて、宮殿や楼閣を築いた
・自動発射の弓を置いて、忍び込もうとする者を射殺した
・水銀を流して河や海をかたどった。
・天井には、宝石で描かれた星がまたたいていた。
なんだか、ロマンチックなのか殺伐としているのか、さっぱり分からない話となった。水銀だけに、小生の脳味噌の中で、水銀滴がブヨブヨしているのかもしれない。それとも、ガキの頃に水銀の滴で遊びすぎたのか。
一応は、季語随筆と銘打っているので、水銀が関わっているかもしれない、虹の映像などを見てもらおう。久しぶりに「季語の風景」(文・山崎しげ子)の文と画像(写真部・河村道浩)を楽しんでみたい。
「水しぶき虹七色をくり返す」という句も載せられている。
最後である。冒頭に掲げた写真は、なずなさん(右側)や紫苑さん(右側)にいただいたクリスマスプレゼントの画像である。嬉しい! ありがとう!
毎年のことだが、クリスマス(イブ)を一人で過ごす小生には何よりの心の灯火となった。
せっかく、素敵なプレゼントをもらったのに、こんな野暮な雑文を飾る形になって、申し訳なく思っている。でも、小生は、こんな人間なんだもの、仕方ないね。
さて、本当の最後である。駄句で締めくくりだ!:
唇に水銀塗って死の笑みか
イブの日にイブに出会って慰撫されん
夢を追い虹の飛沫と散りけるか
誰よりも神と仏に縋りつく
悲しみを虹に溶かして流れ行く
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