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2004/11/15

荒む心

 荒(すさ)む心などと、穏やかでない表題を選んでしまった。
 別に、仰々しく現代社会を切ってみせよう、などというのではない。
 先月、小生は、「適正診断」を受診してきたのである。これは、独立行政法人の自動車事故対策機構が主宰しているもので、タクシーやトラック、バスなどのドライバーや、その管理業務に携わる者など、自動車運送事業者に義務付けられている、文字通り、車の運転の適正を診断しようというもの。
 小生は、タクシードライバーになって九年を越えた。二種免許を取得したのが、95年の8月、正式に運転手として働き始めたのが翌9月の下旬なのである。
 当初は、自分に運転もそうだが、接客業であるタクシー稼業が務まるか、心配だったが、とにかく、無事これ名馬じゃないが、今日まで大過なく勤めてくることができた。自分なりの努力もないわけではないが、やはり、東京という交通事情の厳しい、地理も複雑を極める場所で、なんとかやってこれたのには、運もあったのではないかと思う。
 ドライバー…、日本語では、運転手。まさに、「運」に弄ばれ天に転がされる面も多々、あるのだ、だからこその運転手なのだと、つくづく思う。
 昨年の10月に、酔払い運転の車が信号を無視して(気がつくのが遅れて)交差点に突っ込んできて、あわや大惨事になりかねない状況に見舞われたこと、小生、肝に銘じているところである(この詳細は、「小生、事故の当事者となるの巻」を参照のこと)。
 自分が気をつけても、どうにもならない…、生きている道路をつくづくと実感したし、運転する状況は一瞬ごとに変化する、決して同じ状況など(似た状況はあっても)ないのだということを、仕事をするたび、日々、痛感している。

 さて、本題に戻ろう。適正診断の結果票を過日、貰った。その内容に、実は感じるところがあったのである。
 9年に渡るタクシードライバー歴で、この診断を多分、4回受けている。
 一番最初の時は、結果が良かった。診断は、主に二つに分けてされる。心理適正診断と視覚機能診断である。
 最初の時、良かったと言うのは、その両者が、適正だったということである。
 それが、視覚機能診断は、多少の波はあっても、ほぼ適正に終始し、今回も、概ね良かった(5段階評価の5がほとんど)。
 が、心理適正診断のほうは、診断結果が低下の一途を辿っているようなのである。ほとんどが、5段階評価の3で、中には2もあった。小学生の頃の通知表より、若干、マシな程度の結果である。
 ちょっとショックだった。この心理適正診断は、「感情の安定性」「協調性」「気持ちのおおらかさ」「他人に対する好意」「安全態度」の5項目ある。それらの診断結果が芳しくなかったということなのだ。
 しかも、診断ごとに劣化しているようでもある。むしろ、この低下傾向に感じるものがあったのだ。
 上記したように95年の9月にタクシー業務に携わった。最初の1、2年は、地理不案内もあり、接客業の難しさを痛感したり、とにかく無我夢中の日々を過ごした。
 が、景気もバブルが弾けた後遺症も癒え始め、経済成長率も3から4%になってきたりして、とにかく、忙しかったのである。休憩も、回送にして路上の人影を避けるようにして、取るしかないという状況だった。
 それが、一変したのは、97年の8月だった。橋本龍太郎氏が総理大臣の頃で、旧大蔵省のいいなりになったのかどうか分からないが、その4月に消費税が3%から5%になり、特別減税を廃止するなどし、消費税アップの駆け込み需要が一巡した8月に、一気に経済が奈落の底に突き落とされてしまった。
 加えて、タクシーへの規制が緩和されて、タクシー業界への参入が容易になった。結果、タクシーの台数が一気に増えた。これらのことが負の相乗効果となって、日本経済のみならずタクシー業界も直撃してしまったのである。
 小生(に限らないが)の売り上げは、前年比8割、7割と落ちていって、98年の1月には5割を切るまでに落ち込んでしまった。
 その後、特別減税の実施などがあり、多少は持ち直したものの、消費税アップ前に比べて7割のレベルを超えることは、結局、今日に至るまで、なかったのである。
 このことは、小生のみの売り上げがダメなのではなく(それだったら、小生の怠慢に尽きる!)、大方のドライバーの数値を見ても、同じ傾向を示す。特に小生のように、流しでの営業を好む者の打撃が大きい。
 この3割以上の売り上げの低下、つまりは収入の低下は大きい。しかも、消費税アップ前は、月に一度は休んでいたりする。今は、お盆と正月以外は、休まない(休めない)のに、3割の低下なのである。
 生活は、完全に一変してしまった。好きな美術館通いも止め、たまに誘われていく温泉も借金の上積みを覚悟となり、昨年は多少の無理をしてライブに行って楽しんだりしたが、それは論外となり、今年に入っては、文庫本も含め、本を買うのを止めてしまった。口に入るもの以外は、電気・ガス・水道・電話を除けば、払う項目で大きいのは、税金という始末である。
 つい最近、食べ物以外で買い物をして嬉しかった。それは傘。それも、ビニール傘で、なんと、スーパーで105円で売っていたので、つい、衝動買いをしたのである。傘を買ったのは(数年前に福袋の中に入っていたのを除くと)、十数年ぶりだと思う。
 生活が最低限の水準でやっと保たれている…。テレビも数年前に壊れたのを機に、やめた(NHKの受信料も、昨年から支払いを止めてもらった)。
 別にカネが全てだと思わないが、外出の一切ができない(動けばカネがなくなるようで)というのは、やはり異常だと思う。走っても走っても、お客さんが見つからず、仕方なく、適当なところに車を付けて、お客さんをずっと待つ。そんな日々が数年続いている。空車で走り回るだけの日々というのは、繁忙で体が疲れる以上に、遥かに神経が磨り減るものである。
 一体、オレは何をやっているんだ、という日々の7年が続いているのだ。不況なのにタクシーの台数を増やして、利用者には便利なのだろうけど、運転手は苦しいだけ。まさに、文字通りの身を切るだけのサービス業になってしまっている。
 そんな中、工夫の余地は、いろいろあるのだろう。でも、業界全体の地盤沈下という現実は微動だにしない。
 タクシーをやっていて楽しいことはいろいろある。その数々を書いてみたいが、そんな元気など、出ない。自分なりに走るルートを探し、お客さんの多そうな場所を見出し、売り上げを伸ばしていく…、そんな日々が儚い夢だとあっては、元気も出ようがないのである。
 やってもやっても、成果が出ない、その不毛の日々が自分の心を荒れさせているような気がする。荒(すさ)む心。余裕のない心。思いやりに欠ける心。情緒不安定な精神状態。その全てがやがて安全態度の劣化に繋がっている…。
 というわけで、今回の日記は、愚痴に終始しました。

 話は飛ぶけど、「無精庵方丈記」も、宜しくね。
 

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